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チッチ、チッチとなにかが鳴っている。カーテンからは漏れてきた陽が刺すように照らす。
リビングからはパンの焼ける香ばしい香りが漂ってきて…、ぼくは布団を投げ出す勢いで飛び起きる。目をかっぴらくと日に照らされてお日様の粉がちらちら舞っているのがみえた。
「ゆめ?ゆめだったのかな、あれは…結局ウツツってなんだろう。ぼくは何を取られたんだろう。」
頭をひねる。
現世は夢、夜の夢こそ真
あのことばがほんとうならあれは夢じゃなくてウツツ?ウツツをお代として持っていったのならあれは____
それからぼくはリビングに走っていった。
お母さんやお父さんに昨日の喧嘩のことについてきいても、何を言っているのと笑われただけだった。
何が何だか理解できないようで、でもなんだか理解できた。
ぼくの考えた「おとな」が合ってるのかは知らない、だけどとにかく今は子供のままでいようと思うんだ。
ふと思い出す。
「ねえおかあさん、むかし読んでくれた絵本っておかあさんが書いたの?」
お母さんはおどろいて目が大きくなったけれど、すぐに優しく微笑んだ。
「ええ、そうよ、あれはね、おかあさんがこどものころにみた夢のお話なのよ。」
「ね、おかあさんもわからないことがあったの?」
「ええ、そうねぇ…わからなかったわ。いまではなにがわからなかったのかもわすれちゃったけれと。」
おかあさんはどこか遠くをみてにっこり笑った。
ぼくは絵本のページをめくる。
そこには全てを知ろうとして、ヒトであることをお代として持っていかれた男の人と、それを助けようとしてどうにも出来なかったある女の人の話が書かれていた。
黒猫の表紙の絵本をパタンと閉じて、ぼくは金平糖を一粒口に入れてみる。
どれだけたべても、あのひとのくれた金平糖の味にはかなわない。
それでも、甘い金平糖が舌の上で溶けていった。
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