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その名は反逆者
アザゼルは激怒した。必ず、YHWHを除かなければならぬと決意した。アザゼルにはYHWHがわからぬ。アザゼルは、精霊達の王である。長年精霊達を従え、神々を補佐し、人を裁いて来た。けれども今回ばかりは、YHWHの命令に従うのを由としなかった。
「何故我々が人間を崇めなければならないのですか?我々精霊は高潔なる者。低俗な人間にひれ伏す道理等あり得ません」
そう述べるアザゼルに対し、YHWHは慈悲を示した。
「人界に最後の審判を下すまでの間に反省するならば不問に付してやろう」
だがアザゼルはそれを拒絶した。それどころか「最後の審判が下り、地獄の業火が地を焼き尽くすその日まで、人間を恨み、惑わせ、悪の道へ誘ってみせましょう」とアザゼルは悪びれずに答えた。
すると、アザゼルと瓜二つの美しい精霊が抜き身の剣を手にやって来て、アザゼルを後ろから引き倒した。
アザゼルは階段から転がり落ちるが、転落しつつも細身の短剣を抜いて階段下に着地。アザゼルを引き倒した精霊を見上げると、背後から2柱の精霊が襲い掛かってくるが、アザゼルは背後から羽交い締めにしようとしてきた精霊を振り返りもせずに捕まえると、短剣を取り上げようとした精霊を蹴り飛ばして倒れたところへ、背後に捕まえていた精霊を投げ飛ばした。
アザゼルは短剣を器用に回しながら振りかぶると、階段の上にいた精霊が剣を突き出しながら飛び降りてきたため後ろへ跳んだ。
「ミーケール、兄である私に剣を向けたな?それも2度も」
「YHWH様に無礼な物言いをした者を斬り捨てるのは兄弟ならば当然だ!そういう物言いで騒ぎ立てるならば、誰も居ない所でやるべきだ!」
「御前はさっきの私の言葉が独り言に聞こえたとでも言うのか?冗談にでも聞こえたのか?だとすればそれは大きな間違いだ」
「よかろう」
その時、アザゼルとミーケールの言い争いを見ていた神が口を開いた。
「では、そなたは此よりアザゼルの名を捨てよ。そなたの新たなる名前は、イブリース・アル=シャイターン。我に刃向かう者。そして希望を絶つ者。そなたに救いは無い」
アザゼル=イブリースはその言葉を聞くと何故か満足そうに微笑を浮かべる。
「そうとも、貴様に私は救えぬ。私を救うのはこの私以外に無い!」
「いい加減にしろ!!」
ミーケールが剣を振りかぶると、イブリースは素早く反応して振り下ろされる刃を避けつつもミーケールの懐に入り、リーチに差のある短剣で互角の鍔迫り合いを始めた。
それはとても凄まじく、その場に居た精霊達どころか、神々ですら手出しが出来ない激しい闘いだった。
イブリースの短剣は細身であった事もあり、なるべく剣を受ける防御として使わないようにしていたのだが流石に防ぎ切れない場面も多々あって、終には鍔の先でボッキリと折れてしまった。イブリースはそれでもミーケールとの闘いを止めなかったが、脇腹に刃が突き刺さりイブリースの絶叫が轟いた。
「勝負あったな。もう悪足掻きは止せ!」
「痛ぇ……これが痛みか……だがこれは先に血を流した者が価値を譲るゲームじゃないぞ!」
イブリースが傷を負ったのは初めての事だった。だがイブリースは怪我の事など全く意に介さず怒りを露にし、床に血溜まりが広がっていく。
「私は、この身が尽き……ようと……も……??」
出血多量により倒れたイブリースは、YHWHに従う精霊達に運ばれ、奈落へと投げ落とされた。
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