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おみくじと信仰心の話。
元日、雨天の朝。
生憎の空模様とはいえ、小雨ということもあってか、年明けの境内は例年と変わらず人で溢れかえっていた。
破魔矢を買ったりお参りをしたり、各々好き好きに動いているにも関わらず、人海のそこかしこで成される列はどれも乱れる気配がない。こういうのを日本人気質とでもいうのだろうか。
とんとんと手刀を切りながら身を屈めて列を横切っていくどこかの誰かの所作をぼんやり眺めていた僕は、その様子に何を思うわけでもなく──視線を戻すべく頭を垂れた。
手元には、ついさっき引いたばかりのおみくじが一枚。
このおみくじを、破り捨てるか否か。
それを未だに決めかねて、僕は小雨に打たれ続けている。
境内にはちゃんと結び処があって、用意されたその柵は既にたくさんのおみくじが結び付けられている。思わしくない結果が出た時に悪運を持ち帰らないようにするための──いってみれば悪運限定のごみ集積所だ。
僕にも、自分で引いたおみくじをそこに結び置いていくという選択肢も、あるにはある。でも、そんな一手間さえ馬鹿馬鹿しく且つ煩わしく思ってしまうほど、迷信だの験担ぎでしかないだのと蔑んだ見方をしてしまうほど、今僕の心には余裕がない。
寒さに耐えつつ並び続けて、鬱々と過ごした去年より少しでも良い運勢になるようにとお参りをして、答えを聞くべく引いたおみくじに『叶いがたい』だの『信心しろ』だの告げられては──
切り替えようにも気持ちはますます荒んでしまう。
信心。信心かあ。
充分、信じているつもりなんだけど、なあ。
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