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そっとのぞき込むと「びっくりするやないですか!」と声を上げた。その拍子に墨が青い和紙に落ちる。
「ああーやり直しやー」
がっくりと肩を落として和紙を丸めた。伊佐美氏に「早ようせんかい」と言われて「わかっとるわ!」とまた声を上げる。
「あの、彼は何を……」
「『魂守之札』を作らせてるんや。わしと違って下手くそやけどの」
「やかましい!」と叫びながらも筆からは手を離さず、背筋を伸ばして和紙に向かう。
様々な形に切り抜かれた薄青や濃紺の和紙に筆を走らせる。目を見張るような達筆に思わず感嘆の声を上げた。
「すごい……こんな特技があったとは」
「幼少より散々に仕込んだからの」
勇也は恐るべき集中力で神代文字を走らせる。全身から青い煙を立たせ、瞳は海のように緑がかった青碧色をしていた。
「あーっ疲れた、もうあかん」
筆を文机に置くと大の字になって寝転がった。散々失敗したのか書き散らした和紙が足下に散乱している。伊佐美氏は一枚ずつ手に取りながら言う。
「ひい、ふう、みい……なんで十枚も書くんや。さらわれた娘さんとイツセの器になった者を入れても八枚で事足りるやろ」
「一枚は麻世の分や、あいつも絶対取り戻す」
「ほなもう一枚は」
勇也は鳥の形をした札をマツに渡した。
「ばあちゃんには借りがある。これでおあいこや」
マツは品定めをするように札を表裏返すと、口元をゆるめた。
「じいさんはもう用無しだね」
「まっちゃんも早よう引退したらええ」
「やるべきことが残っている」
「余生はワシと面白可笑しく暮らすと約束したやろ」
「……忘れたね」
マツが懐に札をしまうと「遅くなりましたー」と映実と俊が入ってきた。「見てやー、おれが作った!」と勇也が子供のようにはしゃぐと、俊は「すごいなおまえ」と何度も口にした。
「でもちょっと痛いかもしれんけど」
俊が札を受け取ると青白い火花のようなものが散った。
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