3人が本棚に入れています
本棚に追加
ラーメンは絶対にない
「珍しいな。お前が相談したいことがあるなんて。もしかしらた、恋の悩みか。」
仕事帰りに、会社の同僚の山田に夕飯を誘われた。
行列ができる人気のラーメン屋であったが、もちろん、山田のおごりである。私が茶化して聞くと、山田はいたって真剣に答えた。
「うん、彼女とは結婚を考えている。」
ゴホッ~
衝撃の告白に、私は定食のチャーハンを口にしたままむせてしまった。
話を聞いてみると、この前、親父狩りにあっているところを謎の白いワンピースを着た金髪の美女に助けてもらったらしい。
山田はまだ二十代後半の独身であるが、悔しいことに五人組の不良高校生からみたら、立派なオジサンらしい。
「その女は、強いのか。」
私は、根っからの武術馬鹿かな。
「それがだな、彼女が微笑むと、まるで恋人にでも会ったかのように、トロンとした顔で五人ぞろぞろと後を付いて 暗闇の中へ消えたんだな。暫くしたら、彼女が五人を引き連れて帰って戻ってきた。『おとなしくお帰り。』と、これまた美声のソプラノで囁くと五人組は帰って行ったんだな。全員、無表情で無言なのは、不思議だった。彼女は そのまま帰ろうとするので、俺は慌てたよ。「有り難うございます。お礼に、ラーメンでもいかがですか。」そう言ったら、彼女は笑って答えてくれたんだよ。
『 ありがとう。でも、今夜はお腹一杯だから、遠慮しておくわ。じゃあ、またね。』なあ、あれはどういう意味だと思う。お前の意見を聞かせてくれないか。 」
私は、ラーメンを吹き出しそうになった。
ラーメンはない、絶対にない。
もっと気の利いた誘いができないのか。
それよりたった一度しか会ったことがない、まだ付き合ってもいない女と結婚を考えるなんて信じられない。
まあ、そこが山田の良い所でもある。
「ところで、彼女の名前は聞いたのか。」
「馬鹿にするな。それくらいは、やる。俺は、やる時はやる男だ。
彼女の名前、何だと思う。『ミランダ・カーミラ』っていうんだぜ。
超ヤバいだろう。」
「わかった、わかった、ケータイの番号は聞いたのか。」
「それが、ケータイは持ってないんだって。今時、ケータイを持ってないって、益々イケテルだろう。」
瞳をキラキラ光らせて熱く語る山田に、呆れてしまった。
恋は盲目、アバタもエクボである。
「今晩、彼女に逢いに行く。公園の広場で歌を歌っているらしい。お前も一緒に来てくれ。」
「今からか。」
「ああ、今からだ。」
私が愛する妻、茉莉と出会おうキッカケを与えてくれたのは山田であるから、恩義を感じている。
私は、承知した。
その女の美貌よりどんな術を使うのか、興味もあったからである。
最初のコメントを投稿しよう!