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男の友情のトンカツ定食
「 貴女に本気で惚れている男がいます。真剣に結婚を考えています。」
私は、必死に訴えた。
「 もしかして、このラーメン男。超笑える。」
カーミラは地面に横たわる山田を指さして笑った。
「確かに、神の如き存在の貴女から見れば、見の程知らずで、全く馬鹿げた話でしょう。でもね、一寸の虫にも五分の魂。こいつの貴女に対する愛はエーゲ海より深く、アルプス山脈より高いんです。」
私は自分で言って恥かしかったが、山田の代弁だと割り切った。
「愛仙君自身に言われたら、嬉しかったんだけどな。それで、私にどうしろと言うの。」
口ではそう言いながらも、カーミラは満更でもなかった。
やはり、イケメンは得である。
「黙って、この街から消えて下さい。お願いします。」
「 聞いてやってもいいけどさ。わかる。女の口から言わせないでね。
私を満足させてくれたら、黙って、この街から消えてあ・げ・る。」
カーミラの妖艶なる美貌が月夜に照らされて、妖しく光る。
「本当ですか。有り難うございます。精一杯、頑張ります。」
私は、カーミラの申し出に従うことにした。
愛する妻がいる身で、何ということをと、責めないでもらいたい。自らの命の危険も顧みない熱い炎の友情と言ってほしい。
私の全身全霊の努力の結果、カーミラは黙って街から姿を消した。
「カーミラは日本に歌の勉強に来ていたが、ピザが切れて故郷に帰った。
おまえに宜しくと言っていた。」
目を覚ました山田には、そう伝えた。
「そうか、そうだったのか。そう言っていたか。」
夜空に浮かぶ月を見上げた山田は、残念そうであったが、カーミラに宜しくと言われ、嬉しがっていた。
全くの私の作り話であるが、本当の事を話しても信じてもらえないだろうし、傷つけることになる。
嘘も方便。
禅語には、実際に「方便」が存在する。
お腹が減った私たちは、深夜食堂に出向き、どでかいトンカツ定食を注文し、ガツガツと食べるのであった。
ご飯とキャベツをお代わりしたのは、言うまでもあるまい。
今回は、私のおごりである。
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