ラーメンは絶対にない

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ラーメンは絶対にない

「珍しいな。お前が相談したいことがあるなんて。もしかしらた、恋の悩みか。」  仕事帰りに、会社の同僚の山田に夕飯を誘われた。  行列ができる人気のラーメン屋であったが、もちろん、山田のおごりである。私が茶化して聞くと、山田はいたって真剣に答えた。 「うん、彼女とは結婚を考えている。」 ゴホッ~  衝撃の告白に、私は定食のチャーハンを口にしたままむせてしまった。  話を聞いてみると、この前、親父狩りにあっているところを謎の白いワンピースを着た金髪の美女に助けてもらったらしい。  山田はまだ二十代後半の独身であるが、悔しいことに五人組の不良高校生からみたら、立派なオジサンらしい。 「その女は、強いのか。」  私は、根っからの武術馬鹿かな。 「それがだな、彼女が微笑むと、まるで恋人にでも会ったかのように、トロンとした顔で五人ぞろぞろと後を付いて 暗闇の中へ消えたんだな。暫くしたら、彼女が五人を引き連れて帰って戻ってきた。『おとなしくお帰り。』と、これまた美声のソプラノで囁くと五人組は帰って行ったんだな。全員、無表情で無言なのは、不思議だった。彼女は そのまま帰ろうとするので、俺は慌てたよ。「有り難うございます。お礼に、ラーメンでもいかがですか。」そう言ったら、彼女は笑って答えてくれたんだよ。 『 ありがとう。でも、今夜はお腹一杯だから、遠慮しておくわ。じゃあ、またね。』なあ、あれはどういう意味だと思う。お前の意見を聞かせてくれないか。 」  私は、ラーメンを吹き出しそうになった。  ラーメンはない、絶対にない。  もっと気の利いた誘いができないのか。  それよりたった一度しか会ったことがない、まだ付き合ってもいない女と結婚を考えるなんて信じられない。  まあ、そこが山田の良い所でもある。 「ところで、彼女の名前は聞いたのか。」 「馬鹿にするな。それくらいは、やる。俺は、やる時はやる男だ。  彼女の名前、何だと思う。『ミランダ・カーミラ』っていうんだぜ。  超ヤバいだろう。」 「わかった、わかった、ケータイの番号は聞いたのか。」 「それが、ケータイは持ってないんだって。今時、ケータイを持ってないって、益々イケテルだろう。」  瞳をキラキラ光らせて熱く語る山田に、呆れてしまった。  恋は盲目、アバタもエクボである。 「今晩、彼女に逢いに行く。公園の広場で歌を歌っているらしい。お前も一緒に来てくれ。」 「今からか。」 「ああ、今からだ。」  私が愛する妻、茉莉と出会おうキッカケを与えてくれたのは山田であるから、恩義を感じている。  私は、承知した。  その女の美貌よりどんな術を使うのか、興味もあったからである。
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