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目が覚めたら、真っ白。
昨日の朝、目を覚ましたのは公園だった。
いつものように兄と二人でご飯を探しに適当にその辺をぶらぶらしていたら、突然空から降ってきた大きな影に捕まったのは覚えている。
そして…。
「…ッ!! た、大変だ! 兄貴! 兄貴!」
「むにゃむにゃ…なんだよ。あと五分……」
「周りを見てよ兄貴ッ!」
「んー…な、なんでい! こりゃ!!」
白。ただ、ただどこまでも、白い砂漠。
「兄貴、これきっとアレだよッ! キャトルミューティレーションって奴だ!!」
「………キャラメルミルクティーさん?」
「どう聞き間違ったのそれ? 違うよ! 宇宙人にさらわれたんだよ僕たち!」
「な、なんだってーッ!!」
兄の声が反響してこだまする。
どうやらだだっ広い部屋に閉じ込められているようだった。
「し、白い…ど、どうしよう…兄貴ぃ…」
今にも泣きだしそうな弟に、兄は必死に強がった。
「しっかりしやがれ! 出口を探すんだよッ」
「お、おうよッ」
足元は粒の大きな真っ白い砂がゴロゴロしていた。
二人は何時間も必死に走り回って出口を探したが、広い広い砂漠の外周は全部見えない壁に囲まれているようだった。
「うぅぅ…兄貴ぃ…僕たちもうおしまいだぁ…」
「し…しっかりしろぃ…ッ! うぅ…ッ、宇宙人めぇ…ッ」
疲れ果ててぐったりした弟を寝かせて、兄は必死に穴を掘った。
「いいかッ! 見てろッ!! この見えない壁だってな、地面にトンネルを掘りゃいつか途切れるに決まってる!! そっから脱出すんだッ!!」
「う…うぅ…兄貴ぃ…」
必死に必死に見えない壁に沿って斜め下に穴を掘り進めていく。
上も下も右も左も、ただただ真っ白なトンネルを何時間も何時間も。
しかし、出口はとうとう見つからなかった。
力尽きた兄が穴から出て、弟の隣で真っ白な地面にバタッと倒れる。
「ああ…せめて…死ぬ前に甘いものをめいっぱい…食べたかった…ぜ…」
「…………」
弟からの返事はなかった。
腹をすかせた弟が、朦朧としたまま地面の砂を口に運ぶ。
「お、おい…ッ! おま…そんな得体のしれない砂なんて食べるんじゃねぇ…ッ」
毒だったらどうするんだッ。と兄が叫んだ時だった。
「あ、あ、あ、あ、兄貴ぃぃぃぃぃッ!!」
「ど、どうしたッ!?」
「こ、これ、全部砂糖だッ!!」
「な、な、なんだってーッ!!」
白い砂漠の正体は、なんと二人が大好きな甘い食べ物だった。
無我夢中で地面を食べ続ける二人。
「あー…ッ! いっぺん砂糖の山を食ってみたいと思ってたが、もう食えねぇ…」
「僕もおなかいーっぱい…」
ぷっくりと膨らんだお腹をさすりながら、ただただ白い世界の真ん中で兄弟二人、空を眺める。
「幸せだなぁ…」
「幸せだねぇ…」
「宇宙人の奴らもなかなか気が利くな」
「そうだ兄貴、これからここに住もうよ。そうしたら食べ物探さなくてもずーっと寝て食べて生活できるよ」
「おおッ! そりゃあいいッ!!」
「うんうんッ!」
「俺たち幸せだな…」
「うん。幸せだね…」
「幸せだ…」
「幸せだね。兄貴」
「ね、兄貴…」
「なんだぁ…?」
「ここってきっと、天国だね」
「おお。白い天国だ…」
台所で夕飯を作っていた母親の元に、小学生の男の子が大きな瓶を両手に持って走ってきた。
「お母さんッ!! アリさん死んじゃった!!」
「あら。それじゃ自由研究にならないわね」
「いいんだッ! アリさんを砂糖のおうちで飼うと死んじゃいますって書いとくから」
「それだけじゃ先生に怒られるわよ?」
「それだけじゃないよ、アリさんは砂糖に穴を掘って巣を作ろうとしたりもしてたんだよ?」
夢中で母と話す少年の手元の瓶には砂糖だけがいっぱい詰められており、その砂糖の地面の上で立派なアリが二匹。仲良く並んで動かなくなっていた。
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