あの頃の景色

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あれは、私が五歳くらいの頃。 布団の中でも感じる肌寒さに思わず目を覚ますと、窓の外は一面。真っ白な雪で埋まっていた。 空から射す太陽の光が地面の白をキラキラ輝かせていて、子供だった私でも、その景色はとても綺麗だと感動した。 「お母さん!!お父さん!!雪だよ!!雪!!」 けど、そんな感動も束の間。 積もった雪で早く遊びたかった私は、休日でゆっくり寝ていたお母さんとお父さんを起こして、いち早く外へ飛び出した。 「すごーーい!!」 見渡す限り、辺り一面雪だらけ。 家の屋根にも、大きな木にも、道路にも。キラキラと輝く真っ白な雪が積もっている。 感動と興奮で全身うずうずしていた私は、庭一面に積もったふかふかの雪へ、勢いよく飛び込んだ。 まるでクッションのようにボフッと鳴る雪の音。 柔らかくて、とても冷たい。息を吸い込むと、ひんやりとした空気が流れ込んでくる。 それなのに、それでも私の身体はとてもポカポカしていた。 「あはははは!!」 冬の季節にしか味わえない特別な時間は、とても楽しかった。 お母さんと雪ウサギを作ったり。お父さんと雪合戦したり。友達と沢山雪だるまを作って家の玄関に飾ったり。 寒くても、冷たくても。 私は冬が、雪が、大好きだった。 「ねぇおばあちゃん。そのキラキラなまっしろなけしき、ぼくもみれるかなぁ?」 「……そうだねぇ。見せてあげたいねぇ。私が見た、あの頃の美しい景色を」 あまりの暑さに、私は被せられていた毛布を端っこへ押しやる。 時刻を確認しようと横を向くと、壁に掛けられたカレンダーが、気が付けば一月に変わっていた。 「あぁ。もうそんな時季なんだねぇ……」 私の大好きな季節。 七十年前の今頃なら、窓の外はとても綺麗な雪景色が見れていた……はずだった。 しかし今。窓の外から見える景色は、真っ白な雪どころか……灰のような、砂のような、濁った色。 真冬にもかかわらず、まるで夏のような暑さ。 昔のように外に飛び出したくても、免疫力の低い老人や子供には、この汚い空気は身体に悪すぎる。 だからずっと家の中。 窓も開けず。汚れてしまった景色だけを見つめている。 「ごめんねぇ。私達のせいで、あの頃の綺麗な景色を見せてやれなかった」 「だいじょうぶだよおばあちゃん!いつか、ぜったい!みれる日がくるよ!」 「……あぁ。そうだねぇ。そうだといいねぇ……」 地球温暖化。 私が若い頃から、その問題はずっと取り上げられていた。 ゴミで海や川は汚れ、緑の森は真っ赤な炎に焼き尽くされ、次々と動物が死んでいく。 その原因は全部ーー私達『人間』せいだった。 私達人間が楽をする為に、金の為に、地球は壊されてしまった。 でもだからこそ、私達人間が地球を救わなければいけなかったんだ。 壊してしまったのが私達なら、直すのも私達。 けれど結果は、この汚れてしまった世界だ。 長く生きた私は、もう残り少ない命。 でも、今を生きる子供達はどうなってしまうのだろう。どうやって生きていくのだろう。 私達は、未来の為に動かなければいけなかったのだ。 これからを生きる小さな命の為に。 「……もしも」 もしも、あの頃に戻れたらーー。 もしも、地球がまだ綺麗な世界へと生まれ変われたらーー。 今度は、見せてあげられるだろうか。 あの綺麗な雪景色を。
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