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いつもより、うんとワクワクしてドキドキする日って、なーんだ?
世界中で一番ハッピーで、自分が主役になれる日って、なーんだ?
それはどこの誰でも、みんな一年に一度訪れて、ささやかな願い事が叶う日。
それは……そう。
誕生日。
*
「ほら、舞ちゃん。ケーキのろうそくを消す前に、お願い事してね。頭の中でよーく願うのよ」
カメラを持ったママが言った。
これは私の十回目の誕生日。ケーキには1.12の数字とHappy Birthdayのろうそくが、ゆらゆらと揺れている。
私は水色のドレスを着て、魔法のプリンセスと同じティアラをつけて、ママのカメラに向かって真顔でピースをする。
「ほら舞。ママがシャッターチャンスを待ってるぞ。ろうそく、ふーってやるんだぞぉ。なにを願うんだ? どんな願いも叶うからな」
そう言ったのはパパ。いつもは大学の研究室にいるから、久しぶりに顔を見たわ。私の誕生日だから当然かな。白衣姿なのは、許してあげる。
パパ達には悪いけど、願い事は特にない。10歳の私は、とっても冷めていた。だって欲しいものは大体パパとママから貰えたし、これといった欲求もなかったの。
だけど、目の前でニッコニコのパパ達に、そんな事言えないわ。だって私、ちゃあんと空気を読むお利口さんなんですもの。
私は悩んで、良い事を思いついたわ。
今じゃなくて、十年後の私の為にお願い事をしましょう。
十年後の私。あなたが頭に描く事が、全て本物になりますように。
そして十年後の私も、みんなにお祝いされて、クリームたっぷりのケーキを貰えますように……。
そうして、十歳の私はろうそくを消したの。
十年後の私は、喜んでくれるかしら。
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