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「あの、お忙しいところ急に」 「いいから。用件言って?」 「……ネタを見て頂きたくて来ました」  簡潔に言えばそれだけである。梨郷は、それで伝わるのかとハラハラしたが、中島は「なるほどね」と、それで全てを察したようだった。 「嶺ちゃん、この子達、関係者席に座らせてあげてよ。で、終わったらホテルでネタ見るから……えっと、もうこの際だから泊まっていきな? 部屋、取ってあげるから。嶺ちゃん、いいよね?」 「いいけど、経費じゃ落ちないよ?」 「それは俺が持つから」  虹色キャラメルのマネージャー、古原嶺がさっそくホテルに連絡を入れている。本番十分前にアポもなしに押しかけ、ホテルの宿泊代金まで中島に負担させてしまっている状況に、高梨はなんと言葉を発していいかわからなかった。梨郷よりはしっかりしているとはいっても、高梨もまだ未成年で人生経験は浅い。呆然と言葉をなくす高梨を見て、梨郷が不安そうな顔になる。 「部屋は確保しました。二人は……養成所の生徒さん?」 「年末のオーディションで、俺とうのちゃんが満点つけた一押しコンビだよ」 「それは楽しみね! まさか真杜と雫にネタを見てほしいなんて後輩が出来るとはねぇ」 「なにそれ。俺らが信頼ないみたいに。いいから早く関係者席に案内してあげて」  言葉なく立ち尽くしたままの高梨と梨郷に、中島が「楽しんでいってね」と声をかける。二人はやっとの想いで感謝の言葉を絞りだし、古原の背中を追う。
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