肝心なことは伏せている、自分をよく見せたいがために

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「なんと! 生き残りがいたと言うのか! 坊主、なぜに石にされておらんのだ」 「石? どういうことですか?」 「何も知らんということか……」 男は少年の閉じられた目と、盲目の者が使う杖を見て事情を察した。 「坊主、目が見えないことで助かったというか。不幸中の幸いであったな」 「あの、どう言うことですか?」 「いいか、今から私が言うことを落ち着いて聞け。この村はメデューサに襲われたのだ」 「メデューサ?」 「ゴルゴン三姉妹の末妹で、恐ろしいバケモノだ」 メデューサ。蛇の髪の毛を持ち、見たものを石化させる程の恐ろしい顔をし、猪の牙を持ち、黄金の翼をもった女の怪物である。血はありとあらゆる病気を癒やす万能薬とされている。彼女と同じ姿をした三姉妹を総称して「ゴルゴン三姉妹」と呼ぶ。 「じゃあ…… お父さんもお母さんも……」 「残念だが、石にされてしまった」 少年は男によって石にされた母の石像の元に導かれた。優しく温かった母のぬくもりは無残にも冷たい石へと変わってしまっていた。あるのは元は服のたわみだった波打つかのような石のような感覚。 少年は石にされた母を前にただ泣くことしか出来なかった。そして、一つの疑問が頭に過る。 「お父さんも……」 「残念ながら……」 少年は男に導かれて椅子に座る父の前に立った。椅子に座る少年の父は椅子の上に座る彫刻のように冷たく硬い「もの」であった。逞しくも温かい丸太のような腕はもうない。 男は少年から離れてドアを開けた。 「坊主、君を一緒に連れて行きたいところだ。だが、私にはこれ以上こんな村を増やさぬために使命がある。失礼させてもらうぞ」 「あの…… あなたは」 「私はセリポスのペルセウス。セリポス王の命により、メデューサの討伐に参った」 「ペルセウス様……」 「では、失礼! 逞しく生きるのだぞ!」 男、ペルセウスは足音も無くその場から去っていった。 少年はペルセウスが去って以降、時が流れるだけの毎日を過ごしていた。杖を頼りに村を歩いてみれば少年に対しては冷たかった元村人の石像にぶつかるか、石化した雀か鶏に躓いて不便しかないので家の自室と、居間の往復をするだけとなっていた。水と食料は備蓄分で何とかなっていた。せめて水だけでもと家の井戸で水を汲もうとしたが釣瓶を握ることも出来ずに桶を井戸の底に落としてしまい、もう水の追加は出来なくなってしまったとうらぶれることしか出来なかった。少年は一日でも長く生き延びようと日々の食事の量を減らすのであった。
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