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いよいよ食料も水も尽きかけようとした時、少年は自室にて玄関の蝶番が鈍く開く音を聞いた。少年は慌てて居間へと向かう。居間に置かれた両親の石像が運ばれるような音が聞こえる。その運んでいた主は少年の姿を見て手に持っていた石像を床に落としてしまった。どんと言った鈍い音が居間に響く。
「お前は…… 石になってないのかい?」
少年の耳に入ってきたのは優しく落ち着いた女の声だった。
「おば…… さん? おねえ…… さん? どっちかわかんなくてごめんなさい。お父さんとお母さんどうするの? ぼくのお父さんとお母さんを持ってかないで下さい」
「お前、目を閉じているんだね。目を閉じたまま人と話をするなんて不躾な子だ。目をお開け、そうすればあたしがおばさんかおねえさんか分かるはずだよ」
女は少年が目を開けた瞬間に石になるんだろうなと思っていた。これまでもずっとそうだった。さぁ、この醜くも恐ろしい顔を見なさい! 親子三人共々石にしてやるよ! 女はこれまでも同じように数多の人間を石にしてきたのである。
少年は目を見開いた、その目の焦点は定まっていない。そして、同時に口を開いた。
「ぼく、生まれた時からずーっと目が見えないんです。ぼく、真っ暗闇しか知らないんです」
女は少年の前に立ち、頭をいいこいいこと撫でた。少年はその手の感覚に「冷たさ」を覚えた。
「お姉さん、女なのに騎士なの?」
「どうしてだい?」
「冷たい鎧着てるんじゃないの? 手までキッチリ鎧着てて重くないの?」
女は苦笑いをした。
「この手は自前だよ。昔ね、他所様の体を貶したら、罰でこんな手にされちゃったんだ。まぁ、手だけじゃないんだけどね」
女は自らの四方八方にうねうねと動く髪の毛を一本(一頭)少年の手の甲に這わせた。少年は表情も変えずにそれを優しく撫でる。
「蛇が家に入ってきた」
「あんた、分かるのかい? 蛇が手に這って気持ち悪くないのかい?」
「ぼくの部屋の窓から時々入ってくるんだ。冷たくて細長い奴。ぼく、目が見えないから指先で触った感じでしか分からないんだけど。気持ち悪いとは思わないよ。冷たくて気持ちいいし」
少年の腹時計が大きな音を鳴らした。そして、腹を押さえて膝から倒れ込む。女は慌ててそれを支えた。
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