肝心なことは伏せている、自分をよく見せたいがために

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 それから少年はメデューサの誠心誠意の介護を受けた。食事は勿論、たまにはお日様を浴びなくてはいけないと手を引いての外の散歩までをも行った。その最中に二人の姉を紹介されたのだが、その姉二人も少年の介護を手伝うのであった。 ある日の夜、寝に入る前に枕元にて本の読み聞かせをするメデューサに少年は尋ねた。 「メデューサは優しい声をしてるね。怖い顔してるなんて信じられないよ」 「そう…… 人は勿論、鳥も獣もあたしの顔を見ただけでみぃんなあっという間に石になっちゃうんだよ」 「どうして怖い顔してるの? 生まれつき?」 「違うのよ。女神様の髪の毛を馬鹿にしたら、その罰で…… あたしだって生まれた時は顔も美しかったし、今は蛇でにょろにょろしてる髪の毛も黒くて艶のある綺麗な髪の毛だったの」 「女神様?」 「そう。酷い話だろ?」 「酷いことするね、その女神様。外見を馬鹿にするメデューサも悪いけど、やりすぎだと思う」 「そう…… よね」 「気になったんだけど、お姉さん二人はどうして石にならないの?」 「あたしの顔を見て怖いって思わなければ石にはならないのよ」 「じゃ、ぼくなら大丈夫かも。ぼく、生まれた時からずーっと目が見えないから怖い顔や優しい顔って言うのがわからないんだ」 少年は目が見えない故に視覚における恐怖が存在しなかった。少年にある恐怖の概念は心無い言葉や天然自然(雷・暴風)などの声や音であった。 時は流れ、少年の体調は回復した。いよいよ人里に送ろうかと言う時、メデューサは一つのことを考えた。目も見えぬままに人里に出していいのかと。少年には世話をしてくれる者なぞいるはずがない、それがいきなり入った人里であれば余計にである。 そして、一つの決断を下した。 「いいかい。あんたの目を見えるようにしてあげるよ」 「え? そんなこと出来るの?」 「その代わり約束がある。この洞窟から出た瞬間にあんたの目が見える治療をしてあげる。その後は人里に着くまでは決して振り向いてはならないよ。いいね」 「どうして?」 「あんたがあたしの顔を見たら石になってしまうからさ」
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