肝心なことは伏せている、自分をよく見せたいがために

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 少年はこれまでと同じように洞窟で暮らすことにした。 そしてある日の夜、少年は微睡みの中で何かが洞窟の中に入ってくるような気配を感じた。だが、寝ぼけているのだろうと思いすぐに深い眠りに入る。 少年の隣でメデューサはすーすーと寝息を立てて眠っていた。髪の毛の蛇達も目こそ見開いているが深い眠りに入っている。 「今だ! メデューサ! 覚悟!」 男の声が洞窟内に響く、それと同時にメデューサの首は切られてしまった。その首はフッと消え去る。男はこんなところに長居は無用と宙に浮きながら洞窟の外に出た。僅かな空気の動きを感じた少年は男の後を追いかけた。洞窟の外に出て今にも飛び立たんとする男に向かって少年は叫んだ。首の無いメデューサの死体を見て涙を浮かべながらの叫びである。 「待て!」 少年の目の前には誰もいない。だが、返事が返ってきた。 「坊主、私が見えるのか?」 「姿を消しても何かが飛んで空気が動くのとか分かるんだよ。それに、血の匂いがぷんぷんするよ」 少年は目が見えるようになっても鋭い耳の感覚は残っていた。目が見えなかった時の名残である。 「こりゃあ参ったな。姿を隠す兜も役に立ちやしない」 男は兜を脱いだ。少年の目の前に一人の剣士の姿が現れる。その剣士は鏡面仕立ての盾を持ち、その盾の後ろには血の染み込んだ革袋がぶらぶらと悲しく揺れていた。 少年はその男の(こえ)を覚えていた。 「ペルセウス……」 「おや、私の名前を知っているのか。私も辺境の地まで轟くような活躍はまだしてないのだがな」 ペルセウスは少年の顔を覚えていない。 「どうしてメデューサを殺した!」 「メデューサは悪いバケモノだった。だから殺した」 「うるさい! 僕にとっては大事な……」 ペルセウスは何も答えずにふわぁと飛び去り、あっと言う間に空の彼方へと消えてしまった。
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