肝心なことは伏せている、自分をよく見せたいがために

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メデューサがいない以上、ここにいても仕方ないとして、少年は他の姉妹に別れを告げて一人、旅に出るのであった。 少年は東に東にただひたすらに歩を進めた。目に見える風景が緑豊かなものとなり、建物も神殿が増えてきた。少年はそれに感動を覚えるのだが、すぐに冷めたものとなる。メデューサを失い心にぽっかりと開いた穴は少年から「見る」感動すらも奪うのであった。 そして、少年はアテナイと言う都市に辿り着くのであった。アテナイでは民達が神殿に集まろうと喧騒を見せていた。少年が民に尋ねると、「今日はアテナ様が神殿にお見えになる」とのことだった。ああ、噂に名高い女神様か、ひと目ぐらい見ておくかと少年はアテナイの神殿に足を運ぶ。 アテナイの民は今か今かとアテナが出てくるのを固唾を呑んで見守る。すると、神殿の奥より見目の麗しい女神が歩いてきた。 アテナである。 アテナイの民はアテナの余りの見目麗しさに息を呑む。少年だけは「あれが美しい」と言うのかと無関心であった。だが、足元に立てかけられた盾を見て少年は驚愕した。なんと、メデューサの顔が盾に貼り付けられているのである。あの顔は間違いなく、ぼくが好きだったメデューサ。あの(ひと)が何故に盾に? 驚きを隠せない。更に目を凝らして見ればアテナの鎧には蛇の装飾がなされている。目が見えない時に少年の手を這っていたメデューサの頭の蛇達であることは明白だった。 ペルセウスが切り落としたメデューサの首を加工し、身にまとっているのか。あの女神様は。少年は思わず笑ってしまった。 「怖いな……」 少年は悲しく嘲笑しながら踵を返すのであった……                                                                   おわり
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