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その日は、初夏に建てた山小屋に泊まることにした。
周囲の人たちは、私が追う存在に対し、見たことも聞いたこともないと言って、最初は小ばかにしていたが、こちらの熱意をみてなんとかこの時期だけ、許して下さった。
パチパチと良く乾いた薪が心地よい音色をしたためながら燃えている。
ほのかに吐く息の濃さが薄くなり、私は丸まって横になることにした。
愛しい人から頂いたペンダントを握りしめ、僅かな煤の香りを子守歌に、柔らかな床を抱いて寝ることにする。
「うぅーん!」
大きく背伸びをしながら、ひと口水を口に含む。
夜も静かで、夜が明けると外は銀世界が広がっていた。
「綺麗!」
簡単な食事を済ませ、シロビレを背負い歩き出していく。
ザクザクと新雪の上を歩きながら、景色を楽しむ。
「昨日とは違う世界、でも今までと同じ現実」
枝に積もった雪が太陽の光をあびて、溶けだすと、その光が目にはいってきた。
私は迷わない。 なぜなら、たどり着く場所はわかっていた。
ところどころ、雪に覆われていない場所で、うじを見つけたが、どれも興味が無い。
遠くであおの声が聞こえてきても、背負った銃を取り出すことはなかった。
「よっと! うん、だいぶきたかな?」
山小屋があった場所を見ると、もうだいぶ歩いてきたのがわかる。
真新しいイタズの足跡に背筋が震えるが、私が狙っているのは彼らではない。
沢の水をひとすくい飲み、あまりの冷たさに火照った体の熱が逃げていく。
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