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歩き去ろうとするのにためらいがちに、
「春樹……」
と、もう一度小さく呼びかけると、行きかけていた彼がこちらを振り向いた。
「舞……」
私を見咎めて、
「ちょっと先に行っててもらえるか?」
傍らの彼女へ促すと、女性はもう此処には何度か来ているのか、知った風な足取りで先へ歩き出して行った。
「……なんだよ、おまえ…」
彼女が駅の外に出て行くのを見届けると、春樹が改めて私の方に向き直った。
「……うん…ちょっと、あなたのところに行こうと思って……」
会わずにいた三ヶ月分の気まずさが、今さらのようにずんと両肩にのしかかってくる。
「今になって、なんの用があるって言うんだよ……」
春樹が冷めた視線を投げかける。
「……あなたに、謝ろうと思って……」
重苦しい雰囲気を拭えないまま、向かい合わせでそう口を開くと、
「だから、そんなの今さらだろうが」
取り付く島もなく返して、「じゃあ、彼女待たしてるから」駅の構内から出て行こうとした。
「でも……」
言いよどむ私を、「でもじゃないし、」と、春樹が睨むように見る。
「謝ったって、どうにもならないだろ? おまえの言い訳とか、もう聞きたくはないんだよ。
だいたいわかってなかったのか? あんなに男の匂いさせて、俺のところに来ておいて……。
どれだけ心配したかわからないのに、浮気とかいい加減にしろよな……」
春樹の台詞に、ああやっぱり気づいてたんだと思った……。
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