5218人が本棚に入れています
本棚に追加
/238ページ
「……前からなんとなくは気づいてたよ。おまえが、あの社長に惹かれてることは……」
そういえば以前にも、『もし鷹騰社長に誘われたら、おまえはどうするんだよ?』と、彼には訊かれたことあったのが思い出された。
「それでやっぱり俺は向こうには勝てなかったんだと思ったら、どうにも感情のセーブが効かなくなってな…自分でもしょうもないとわかっていても、あんな態度しかおまえに取れなかったんだ……」
彼が敢えて話さないでいてくれた本音が知れると、私は知らない間にも春樹のことをたくさん傷つけていたのかもしれないと感じた……。
「……ごめんなさい、春樹……私も、気遣いが足りなかったよね…」
素直に謝ると、
「もう謝んなよ。俺が情けなくもなんだろ」
彼がそう口にして、
「だから、恋敵だった鷹騰社長に俺が譲ったことにしておいてもいいか。そう思えたら、俺もなんか鷹騰社長のような高層階クラスに張り合えたような気もするだろ?」
ニッと口の端を引き上げて笑った。
「……バカ」
「…ふん、今さらこんなことしか言えないんだからな、どうせ俺はバカだよ」
私の頭をぽんぽんと叩いて、
「俺は、向こうで金髪のねぇちゃんでも捕まえるし」
そう冗談めかして言うと、伝票を手にイスを立った。
「あっ、私の分は払うから」お財布をカバンから出すと、
「いいって。これぐらいで悪いが、おまえへのはな向けにするからさ」と、笑顔を浮かべた。
「舞、じゃあな。幸せになれよな」
「うん、ありがとうね…春樹」
キャリーを引いてお店を出るのを見送ると、春樹を乗せたタクシーは空港に向けて走り去ってやがて遠く見えなくなった──。
最初のコメントを投稿しよう!