第5章「最上階より、愛を込めて」

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「……そうか、あの彼はアメリカに行ったのか」 「うん…」と頷く。彼の部屋でソファーに座り、こないだあったことを包み隠さずに話していた。 「あの時、駅じゃできなかった話も、最後にちゃんとできたから……」 急なことで伝えるのが後からになったにも関わらず、「そうか、よかったな…」と受け入れて、頭を撫でてくれる彼の手の温かさに、 また、「うん…」と首を縦に頷いた。 「……俺のことも、何か言ってたか?」 「……少し、言ってた……『俺が譲ったことにしておいてもいいか』って」 「ああ……」と、ため息ともつかない返事をして、「それは、肝に銘じておかないとだな…」そう口にすると、手にしていたグラスからワインをごくりと飲んだ。 「俺たちの付き合いは、いろいろな人間の関わり合いの上にあったっていうことは、忘れないでいたいよな…」 "いろいろな人間"という彼の言葉に、一瞬麗華さんのことが思い出された。彼女とは、どんな話をしていて、どう受け入れられたんだろうと感じていると、目の前のガラスのローテーブルに置いてあった彼の携帯が唐突に振動をした──。
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