第5章「最上階より、愛を込めて」

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「だから初めてあなたとエレベーターで会った時に、すぐにわかったわ。……ああ彼は、この彼女に惹かれているんだなって……」 そう話すのに、「え……?」と思わずマティーニを飲む手を止めた。 「……エレベーターの降り際に、あなたの名前を呼んでいたでしょう? その呼び方がとても優しい感じがしたから……彼はきっと恋をしているんだろうって思って」 グラスを手にしたまま、彼女の話に少なからず衝撃を受けていると、 「……ちょっと、ドライマティーニをもらってもいい?」 と、私の持ったグラスに視線が向けられた。 「ああ、はい…飲みさしでよければ」 自分の飲み口を紙ナプキンで軽く拭って差し出すと、「ありがとう」と彼女が受け取って一口を飲んだ。 「やっぱり辛くて、私には合わないみたい……」と、グラスが返される。 「……私もドライマティーニが飲めたら何か変わっていたのかしらね…と思ったんだけど、きっとそんなことじゃなかったのよね…」 言ってカウンターに両肘を付けると、わずかにお酒に火照った頬を両方の手で包み込んだ……。
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