5218人が本棚に入れています
本棚に追加
/238ページ
「だから初めてあなたとエレベーターで会った時に、すぐにわかったわ。……ああ彼は、この彼女に惹かれているんだなって……」
そう話すのに、「え……?」と思わずマティーニを飲む手を止めた。
「……エレベーターの降り際に、あなたの名前を呼んでいたでしょう? その呼び方がとても優しい感じがしたから……彼はきっと恋をしているんだろうって思って」
グラスを手にしたまま、彼女の話に少なからず衝撃を受けていると、
「……ちょっと、ドライマティーニをもらってもいい?」
と、私の持ったグラスに視線が向けられた。
「ああ、はい…飲みさしでよければ」
自分の飲み口を紙ナプキンで軽く拭って差し出すと、「ありがとう」と彼女が受け取って一口を飲んだ。
「やっぱり辛くて、私には合わないみたい……」と、グラスが返される。
「……私もドライマティーニが飲めたら何か変わっていたのかしらね…と思ったんだけど、きっとそんなことじゃなかったのよね…」
言ってカウンターに両肘を付けると、わずかにお酒に火照った頬を両方の手で包み込んだ……。
最初のコメントを投稿しよう!