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「……あなたと付き合うようになって、あの人は変わったから」
彼女がふぅーっとひと息を吐いて、そう口に出すのを、
「……変わったんですか?」あまり実感もなく、そう聞き返す。
彼女が「ええ…」と、頷いて、
「仕事をセーブして、あなたとのプライベートな時間を作るようになったでしょう? だから今日だって定時退社をしていて……それで急な要件でお邪魔することになってしまったのだけれど。以前は、そんなこともなかったもの仕事、仕事で」
グラスを手に持つと、片手は頬に添えたままでカランと中の氷を回した。
「私とは仕事の延長でしか付き合えなかったのよね。プライベートとは切り離して考えられなかったのが、舞さんにはちゃんと考えてあげられていて、毎日が楽しそうにも見えてよかったって思ってる……。
……正直に言ったらうらやましく感じてしまうところもあるけれど、だけどそれよりもね、あんなにも仕事人間だったあの人を変えてくれたあなたにありがとうって思えていて……」
そこまで話して、「ちょっと酔ったみたい…」と、目尻をすっと指で拭って、「こんなことを話してごめんなさいね…」と、微かな笑みを浮かべて見せた。
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