第5章「最上階より、愛を込めて」

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「…舞、これからデートしないか?」 電話に出るなりそう声が飛んで、相変わらず何の前置きもなく誘ってくるんだからと。 「……今日? 今日は夜に打ち合わせが入ってるから会えないって言ってたでしょう?」 確かそう聞いていたはずなんだけどと思う。 「打ち合わせが延期になった。それで時間が偶然あいたんだよ」 「だからって……」 今夜は予定がないつもりだったから、もう家ですっかり着替えちゃったのに……。 「……会いたいんだよ、おまえに」 もうそんな言い方されたら、私だって会いたくなるじゃない……。 「用意できたら、俺のマンションに来いよ。待ってるから」 言いたいことだけ言うと、電話は切れてしまった。 「ほんとどうしてこう自分本位で……」口ではそうぶつぶつと言いながら、顔はなんだかにやけてくる。 (あんな人ともし恋愛でもしたら、私までポジティブに楽しく過ごせそうだな……) まだ彼と付き合ってはいなかった頃に思っていたことがその通りになったのを実感できて、出かける用意をしつつも頬は自然と緩みっぱなしになるみたいだった……。
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