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「……いろいろな女性……?」
と、胸に付けられたネームプレートに『美澄』とあるマスターに訊き返すと、
「ええ、よく連れて来られていて」と、頷いた。
「ですが大抵は甘めなカクテルの方がお好みで、たまに辛口がお好きな女性がいてもモヒートやソルティドッグなどの飲みやすいものの方がやはりお好きなようでして。
前にもお話したと思いますが、このマティーニのレシピは社長の好みに合わせてだいぶドライな飲み口になっているので、飲まれる女性が今までいなかったんですよ」
お酒が入ったからなのか饒舌に話すマスターを、
「……いい加減もうやめとけよ、美澄」
軽く制して、彼がマティーニをごくっと喉へ流し込む。
思わぬ話をされて決まり悪げに横に背けられた顔を、「……ふぅ〜ん、そんなにここに連れて来た女の人がいたんだ……」と、下から覗き込んだ。
「いやだからそれは、特定の彼女もいなかった頃の話だろ。あんま責めんな…」
眉を寄せて渋い表情になる彼に、堪えられなくなってマスターと顔を見合わせてつい笑ってしまった。
「……なんだよ2人して俺をからかうとは、いい度胸だな…」
彼が吊られてふっ…と笑いを浮かべ、マティー二をひと息に飲み干すと、
マスターに「もう一杯、もらえるか」と、グラスを差し出した……。
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