第1章「始まりは、エレベーターの中で」

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虚しさを胸に抱えたままで、とぼとぼと彼の家へ向かう。 降る雨は強く激しくなり、せっかくの彼のために買った下ろし立ての新しい服も、濡れてびしょびしょになっていく。 だけど、もうそんなこと、どうでもいい気になってきていた。 (もう別れた方がいいのかな……)とも、思う。 私のことをあまり気づかってもくれない男となんて、いつまでも付き合っててもしょうがないんじゃないかと感じた。 そんなことを悶々と考えながら、走る気にもならずに濡れるにまかせて歩いていた私の頭の上に、 不意に暗く陰が落ちて、傘が差し掛けられた気配がした──。 「えっ…?」と、後ろを振り返ると、 「濡れすぎだろ、あんた。女のくせに、傘も持ってないのか?」 と、背の高い男が見下ろしていた。
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