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虚しさを胸に抱えたままで、とぼとぼと彼の家へ向かう。
降る雨は強く激しくなり、せっかくの彼のために買った下ろし立ての新しい服も、濡れてびしょびしょになっていく。
だけど、もうそんなこと、どうでもいい気になってきていた。
(もう別れた方がいいのかな……)とも、思う。
私のことをあまり気づかってもくれない男となんて、いつまでも付き合っててもしょうがないんじゃないかと感じた。
そんなことを悶々と考えながら、走る気にもならずに濡れるにまかせて歩いていた私の頭の上に、
不意に暗く陰が落ちて、傘が差し掛けられた気配がした──。
「えっ…?」と、後ろを振り返ると、
「濡れすぎだろ、あんた。女のくせに、傘も持ってないのか?」
と、背の高い男が見下ろしていた。
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