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「ありがとう」と言おうとして、その上から目線な言い方に、
(なんなの、この人…)という思いがにわかに湧き上がり、つい言葉に詰まる。
「なんだよ、ありがとうくらい言えないのかよ?」
その男が言って、口の片端を吊り上げて軽い笑いを浮かべた。
「あ…ごめんなさい。ありがとうございます…」
傘に入れてくれたのはありがたいけれど、でもちょっと嫌な感じのする人かもと思いながら、一応のお礼を伝える。
「家どこ? 俺の家に近いなら、そこまで送っていくけど」
横に並んで歩き出しながら言うその男に、
「……あのマンションです」
と、歩道の先に見える彼の住む高層マンションを指差した。
「あそこか? だったら、俺と同じだ。じゃあ、そこまでいっしょに行ってやるよ」
片手で傘を持ち、もう一方の手を当たり前のように私の肩にまわしてくるのに、
「あの、ちょっと…」
と、肩の手から逃れようとすると、
「こうしてないと、濡れるだろうが。変な気なんてないから、おとなしくしてろよ」
さも不機嫌そうに口にして、
「肩を抱くぐらいで、下心があると思うとか、あんたも大概自意識過剰なんじゃないのか?」
と、皮肉混じりに付け足した。
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