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「――もしもし、」
今にも飛び付きたくなる程の感情を抑えた、控え目な声のトーンで俺は電話口に出る。
『颯斗、どうした?』
いつもと変わらない口調である翔琉の背後はやけに騒々しい。やはり仕事中だったのだろうか。
「お仕事中、ですか?」
自ら着信を残しておきながら、いざ翔琉と電話をすると申し訳無い気持ちの方が先立ってしまう。
『あぁ、だが今は大丈夫だ』
「すみません。すぐ切りますので」
電話越しに聞く翔琉の声はいつも通り優しくて。今夜の俺は、何故だかその声に酷く泣きそうになってしまった。
『いや、気にするな。俺も丁度颯斗の声、聴きたいと思ってたから』
その言葉に、俺の内に熱いものが込み上げてくる。
「それより翔琉、明けましておめでとうございます。髪色、変えたんですね。とても似合ってます」
『明けましておめでとう、颯斗。珍しくテレビ、見てくれていたんだな』
「当たり前じゃないですか――」
続けて俺は、「翔琉に逢いたくて」と多忙である翔琉へ、つい感情の赴くまま口走りそうになる。
『誰よりも好きな相手に見ていて貰えるなんて、これ以上無い幸せだな。すぐ傍にいたら、抱き締めてキス……したい。姫始め、したい』
リップサービスの様な翔琉のその言葉に、いよいよ俺の感情は爆発寸前となってしまう。
「何、仕事中にバカなこと言ってるんですか」
翔琉を困らせるだけであろう俺の内に湧き上がっていた激情を悟られぬ様、平然といつも通りに振る舞う俺。
ウソ、ウソ。
そんなの本当は大ウソだ。
本当は、今すぐ翔琉に傍に来て欲しいんだ。
いつも通り甘く蕩けるキスをして、抱き締めて。
翔琉の熱を感じさせて欲しい。
無意識の内に翔琉との情事が生々しく頭を過ぎった俺は、自身の弱さと矛盾に辟易しつつも翔琉を酷く全身で切望していた。
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