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簡単すぎる初詣を心織と済ませ家へ帰宅すると、早速篁からのラインが届いていた。
『今日は久々にタカに会えて嬉しかった。また明日会えないかな?』
絵文字無しのシンプルなものであったが、何故だか俺はそれが嬉しかった。
この四年で随分と見た目が変わってしまった篁。そして、家庭環境がこの四年で大きく変わってしまった俺。
現状の俺を知らない篁だからこそ、再会しても腫れ物に触る扱いどころか昔のままの関係でいられたことに酷く安堵していた。
元々、俺の父親は祖父の代から続く事業の会社社長であった。順風満帆だと思った経営が傾き始めたのは、俺の高校入学とほぼ同時。
裕福だった高遠家は一晩にして破産寸前まで追い詰められ、都内一等地にあった豪邸を始めとしたその全てを売却。逃げる様にして、都内外れにある母方の遠い親戚が用意してくれた今のこの家へ一家で身を寄せることとなったのだ。
現在に至るまで両親は多額の借金返済の為、朝晩ほぼ働き通し。それでも完済する目処は今のところ立っていない。
当時、都内にある私立の有名エリート高校へ通い始めた俺は中退し、借金返済を助けるべく働く覚悟を決意。両親からは退学を大反対され、返済を助けるつもりであれば今は取り敢えず学を身に付けて給料が良い会社へと就職しなさい。そう懇願された。
肩書きの大切さをバイトを探す中で痛感した俺は、そのまま高校生を継続。
当時の担任にも相談し、奨学金でどうにかできない部分を高校生でも何とか稼げる方法を……。という事で、現在の六本木のカフェを特別に紹介されたのであった。
将来、家を支えるのは俺なんだ。
良い家柄の女性と結婚して、両親を安心させて借金の返済も助けるんだ。
翔琉と出逢い愛され、思い描いていたはずの未来や決意は、今やすっかり鳴りを潜めていた。
だがやはり金銭的なものも含め、逃げられない高遠家の事情。
きっと今の翔琉であれば、俺の家庭事情を知った時点で俺を含めた家族全員が何不自由無く一生暮らしていけるだけの援助を何食わぬ顔でしてくれる可能性は大いに考えられる。
せっかく両想いとなった俺たちの関係が、金銭をきっかけに何れ歪んだものへと変化していってしまう可能性も否めない。
だからこそ、裕福だった頃から現状までを翔琉にだけは知られたくないし、今後も知らせるつもりはない。
その証拠に、翔琉から一緒に住む意味での“家へ来い”と告げられる度、俺はそれを無意識の内に躱してしまう。
安堵していたはずの篁とのこの再会が、いつの間にか俺の心へ大きな翳りを落としていたことに気が付く。
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