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ああ、そうだ……。確かこの白を手牌から切った直後、南家の佐碓と北家の能須に同時にロンされたのだ。
そりゃ長く麻雀を打っていればダブロンくらいされる時もあるだろう。しかし。しかしだ。二人の役が、あまりにもあり得なすぎた。
ざわ ざわ
他の雀荘の客も珍しげにこちらを見ている。注目されるのも無理はない。
サウスは“大三元”。片やノウスは“国士無双”。どちらも麻雀に置ける最高の手、役満だ……!
そんな強力無比な爆弾の導火線に二ついっぺんに火を点けちまえば、一気にトぶに決まっている。 ついでに意識だってな。
「わははは、悪いなアズマ。というか、お前の運が悪いのか」
「いや俺とサウスの運がよすぎたんや。なんせまだ五順目やったし。振り込んでもしゃーないしゃーない」
ふざけるな。こんな無慈悲なことがあってたまるかっ……! どうして……どうして俺がこんな目にっ……!
勝負の熱から冷め、全身から血の気が引いていく。寒い……特に、下半身が冷たい……。
「……ん? なんか匂わねーか?」
「っておいおい! アズマのとこ濡れとるやん!?」
ざわ
……嘘だろ。こんなことが、あってたまるか……!
この半荘が終われば行こうと思って我慢していたんだ。それなのに、あんな悪魔的なダブロンを直撃させられたら、衝撃を受ける。緊張が解ける。筋肉も弛む。そして、気を失う。
だから仕方ない。これは、不可抗力だ。アクシデントだ。
だとしても、我ながら情けねえ…………。まさか、この歳になってやっちまうなんて…………。
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