本編

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 第三王子の使者が研究所を立ち去ってから、数時間、ウォルターは自分の部屋から出てこなかった。  その間、俺は雑多な研究所の応接間で事務作業をこなしており、最近では発表した論文に関する特許関係の資料が山を作っているが、ウォルターの部屋に比べればマシだ。  こんな雑用係の俺だがスクールにいた時はモテていた、勿論今でも十分モテている。コレは自慢では無く、現に俺よりもモテてる奴がいるんだ。ソイツはウォルターであって、俺はよく嫉妬した。  それは、俺がスクールで二番目のイケメンだから、とかではなく。アイツは沢山の女を振ったのだ。  ウォルターは昔から錬金術以外のことには点で興味はない。最近では更に拍車が入っている気がする。そんな彼の才能を活かすため、俺はウォルターのマネージメントを買って出た。  まぁ、今ではいいように使われているだけだが。 「おい、レザール。腹が減った」  ほらな。  ウォルターは自室の扉から顔を出し言った。俺はアンタのお嫁さんか? ってに。  研究所の大きな窓から、差し込む西日が絶えず舞う埃に反射している、もうこんな時間か。 「分かった、飯にしよう」  俺は給湯室の食料が入っている戸棚を開けるが中身は盗人が入った後の如くカラ。確か干し肉と瓶詰めのスープがあったはずだが、俺はうろんな目をウォルターに向けた。 「し、仕方がないだろう。頭を使えば腹も減る。私のように常に考えあぐねている者に、一日三食は少なすぎるのだ!」  と弁解、俺が審判を下す。 「分かった分かった。丁度いい、罰として俺の買い物に付き合ってもらおう」  魔法と錬金術との熾烈な争いが勃発してから、ウォルターは数多の論文を発表し、お陰で王国の文明レベルは飛躍的に上がった。しかし、その功績にはウォルターが部屋に缶詰という代償がある。  研究熱心なことは悪くはないが、運動不足は体に悪い。俺は時たま、外に出てみないか? と提案するのだが、ウォルターはいつも、「無意味だ」「部屋にいた方が有意義だ」とかぬかし断る。  今日も一抹の可能性に賭け、冗談を言ったつもりだが、返答は意外だった。 「ああ、構わん。たった今、アイオニストの良い錬金アイデアが思いつかんのだ。気晴らしに運動は絶好だ」  俺たちが住む研究所の立地は、王の膝下である城下町の一番街。流通の発達が著しく、大抵のものはここの市場で揃う。  街並みも、また壮観で、先端技術であるランプ灯や道も石畳で歩きやすい、王国最大の城壁都市の名に相応しい限りであり、俺たちは街へ出た。
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