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翌日、俺たちは迎えにきた馬車に乗り込み、魔法学校を目指していた。
王族のキャリッジとて、大欲の王が仕方なしに使わせた馬車である、お世辞にも車内は広く無く、いつものウォルターならば癇癪を起こしていても不思議ではない。
そのことを危惧したのか、迎えに来た第三王子の使者はビクついた顔をしており、落ち合った時から、ゴマスリを絶えずやめなかった。
しかし、使者の予想を反するウォルターの態度、これまでのよう足を組み太々しく座ってはおらず、馬車の端でかしこまっている。
使者はウォルターのらしかぬ態度を訝しく思ったのだろう口走る。
「ウォルター様に何かあったのでしょうか? いえ、この前とは纏っている雰囲気が段違いなもので」
俺は設問に回答す。
「まぁ、色々ありまして、気にすることはございません」
「はぁ、そうでございますか……はっ、今回の講演承諾、我が王子もとても喜んでおりました。是非今回の公演成功させてください」
使者はウォルターに向けて言ったらしく、俺はウォルターの小脇を小突き、注意を向かせる。
「あ、あ……ああ、なんだ?」
「今回の講演承諾、我が王子も喜んでおりました。是非、講演を成功させてください」
「あ、うん、勿論だ」
どこか上の空なウォルターは空返事を返す、また、いつもとは違う、異様な空気が馬車内に漂っていた。
「それでですね、少し小耳に挟んだのですが、これから行く魔法学校には曲者がおりますぞ」
使者が怪談話でも始めるのかと思うほど、おどろおどろしく言った。
「存じておりますか? ナタリータンブレア学生です」
ウォルターはその名に過剰反応。呻き始めた。
「あれ、わたくし、何かいけないことを申しましたでしょうか?」
「いや、まぁ、気にしなくて良いですよ、ほら、ウォルターは変人ですから」
「はぁ……なるほど」
とか、語ってる間に御者が「着きましたよ」と。
乗り心地の悪かった馬車から降りると、魔法学徒達が数人が出迎えてくれた。
「どうも、錬金術の権威、ウォルターアルントさん」
迎えてくれた魔法学徒たちの行動ひとつひとつに俺は蔑みの感触を覚え、嫌味に見えた。まぁ、対をなす二つの技術の実力者が目前にいるのだ。仕方も無いのだろう。
魔法学校は王都から数キロ離れた草原にて建造された、王国では王城の次に大きい建築物であった。
かの聖杯戦で活躍した古の魔導師の遺言により、魔法学校が設立されたらしく、それに影響され内装は豪奢であった。
今までのウォルターであらば、ひたすらに虫唾が走っていたことだろう、しかし、今のウォルターは試験を受ける学生のよう、緊張した足取りで校内を歩いている。
俺たちが待つように言われた客間は細部にまで技巧の施された彫刻やら、精製の難しいステンドガラスを惜しみなく使っており、芸術点においても評価は高い。
今までのウォルターであらば、嫌悪感が表面張力を起こしているところだろうが、今日のウォルターは一切、悪態をつくことなくかしこまっている。それはナタリーが因果だろう。
緊張しているウォルターに俺は話しかける。
「大丈夫か? ……おい! ウォルター、大丈夫か?」
「ああ……あ、無論だ、私はいつも正常、問題ない、私ならできる」
駄目だこりゃ。
しばらく経つと、魔法学徒がノックを三回、俺が返事をすると、ドアが開き、講義室へと案内された。
講義室には沢山の魔法学校の生徒面々が椅子に座り、ひしめき合って、壇上のウォルターに憎悪の視線を向けていた。
どうやら、ウォルターの魔法嫌い、魔法批判は魔法学校の生徒たちに知れ渡っているらしい。会場には邪険な空気が漂っている。
「これより第三王子陛下主催、魔法錬金術親睦会を開始します、今回、錬金術の権威であるウォルターアルントさんにお越しいたしました。盛大な拍手でお迎えください」
誰一人と拍手をしない中、ウォルターは教台に立つ。
「はじめに断っておく、今日の私は錬金術や魔法などには、一欠片も興味はない」
てっきり、魔法はクソだ! とかの類が第一声だと思っていた魔法学徒たちは、意外な第一声にドヨメキを走らせる。
というか、魔法陣営に対してウォルターの評価が悪すぎる。原因はナタリーと出会う前の気障なウォルターが残した言葉の数々であることは明白だ。口を開けば魔法の非難をしていた男である、仕方ない。
「人間は皆愚かだ、それは私も同様。しかし、人間は皆、後悔をして、学んで、成長をする、これまでの私は学ぶのみで成長出来ていなかった、だが、あの一件で私は成長したんだ」
ウォルターの論点の見えない、発言に魔法学徒たちは当惑した顔をする。
「ナタリータンブレアさん、どうぞ、壇上へ」
ウォルターは高らかと彼女の名を呼んだ。それに呼応し、たくさんの中から彼女はスッと立ち上がり、壇上へと向かい、登る。
ウォルターは近くに来たナタリーの方に体制を向け、優しく話し出す。
「これは単なる私の快楽とでも思ってください、気が済むとは良い趣味なんだ。だから、君が私を許さぬとも良い、それほど私のした行為は愚の極みなのだから」
と、前置きをつくり。ウォルターは一気に頭を下ろす、して。
「ごめんなさい!」
ウォルターが謝ったのは、その時が初めてだった気がする、上手から見ていた俺は思わず涙が潤んだ。
ナタリーは女神のような微笑みの後。
「貴方を許します」
そう言う、魔法学徒たちは尚更困惑した。
「ありがとう! 一つ質問して良いか? 君はなぜ錬金術を学ぶ、君は魔法学校の生徒だろう」
「ええ、錬金術の権威が講演を開くと言うのでそれがキッカケです」
「では、私の講演は役に立たないだろうし、もう、勉強する理由はないな」
「いえ、それでも、是非、私に錬金術を教えてください」
ナタリーは悪戯に笑った。ウォルターは強く頷き、大きく息を吸い、言い放つ。
「以上、講演を終わりにする」
魔法学校関係者の間には、訳の分からん事態に周章狼狽しており。俺はガヤガヤする関係者に向け、適当な説明を行った。
どんな説明をしたか忘れたが、拙く破綻した嘘だったことは明白に記憶している。
でも、まぁ、その場をやり過ごしたので問題はないだろう。流石、俺!
その後、ウォルターとナタリーは望んだ結果になった。つまりは世間一般で言うところの恋仲になったのだ。
俺は彼らの恋を助長する役目として、日々頑張っている。無論、錬金術師としてのウォルターの補佐もまっとうしている。
ナタリーも後数年もすれば、魔法学校を卒業し、正式にウォルターの伴侶となり、そして、王国有数の魔導師としてその名を轟かすことだろう。
いや待て、たった今、魔法と錬金術は水面下で争いを起こしている。愛し合う二人が結ばれることはあるのだろうか? まぁ、それは俺の杞憂だと思いたい。
今は、二人が週一のデートを楽しめればそれで良いのさ……
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