目が覚めたら、見知らぬ洋館だった。

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「自己紹介まだだったねー。」 「あ。桐宮伊織です。」 「うん、知ってるよ。俺は篠原豊(しのはら ゆたか)。こっちはこの家の使用人。」 「高遠理玖子(たかとう りくこ)と申します。ここにいる間は、旦那様より伊織さんのお世話を言いつけられてます。宜しくお願いします。」 篠原に勧められて、伊織も紅茶を一口啜る。 「……美味しい。」 「そうか、良かった。」 「あのー…私はどうすれば?」 「君のお父さんと取引がしたんだけどさ。中々ねぇ。だから申し訳ないけど、君を誘拐したんだ。ごめんね、本当はこんなことしたくなかったんだけどさ。 用があるのは君のお父さんの桐宮音壬(きりみや おとい)なんだけどさ、まぁ……君は保険だね。俺も安心したいからさ。交渉が決裂したとしても、君はちゃんと家に帰すから安心していいよ。」 保険……。 「この屋敷にいる間は、理玖子さんと一緒に居てね。って言っても仕事関係者はこの家に訪ねて来ないから。」 ここはこの男の言うことを聞いておいた方がいいだろう。何となくそう思った。別に危害を加えるような感じはしない。 「理玖子さん、一通り屋敷を案内してあげて。それと暫く、僕はこっちに来れないと思うから。」 「はい、旦那様。お気をつけて。」 「じゃあね、伊織ちゃん。そう言う訳だから暫くここでいい子にしててね。」 篠原は伊織の肩を優しく叩くと、部屋を出て行ってしまった。 「お茶が終わってから屋敷を案内します、ゆっくりなさって下さい、伊織さん。」 「はい、ありがとうございます。」 桐宮家はロシア革命の混乱で、日本まで逃れてきたロシア人の末裔だ。 先祖が日本人女性と結婚し、名を"桐宮"と改めたのが始まりだと聞く。 不動産から病院などの医療関係やホテルの経営まで幅広く、"桐宮財閥"なんて呼ばれている。 父の音壬はその8代目で、些か強引なところがあるが……。恨みの1つや2つを買っていてもおかしくないだろうな…。
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