1人目。

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編集者は私を探して、家の中をウロウロしてました。といっても、アパート暮らしなのでAの死体のある、寝室と、私が横たわっているリビングの2室しかないので、編集者はすぐに私に気付きました。 何か叫びながら、すぐに救急車を呼んでくれました。正直、本当に安心しました。この計画、実は死ぬと、バレてしまうんです。人から刺された傷か、自分で指した傷か、というものは死体解剖でようやく分かるらしいです。そのため、私は絶対に死ねなかったんです。 かすみがかかったように、ぼやっとした意識でふと、気が付くと、病院のベッドの上でした。胸にはガーゼが当てられ、私の顔には酸素マスクが着けられてました。生きている、ということを確認し、安堵して私は再び、目を閉じて、眠りにつきました。 次に、目を開けた時、変わらず、病院の部屋でした。胸にはガーゼ、顔に酸素マスク。何も変わってませんでした。あぁ、良かった、生きてた、そう思いぼーっとしていると、編集者が病室に入ってきました。 「目が覚めましたか!」 私に向かって、駆け寄って嬉しそうに、涙を流しながら、良かった、良かった、と言っていました。彼の様子を見た限り、私が犯人だということは、分かっていないようでした。彼は、待っててください、と言うと部屋を出て医者を呼んできました。医者も私が目を覚ましたことを嬉しく思う、といったことを言っていたような気がします。既に危ないところは去った、命に別条はない、との事でした。私は、何が起きたか分からない振りをしました。現状を把握したかったんです。 「なんで、私はここにいるんですか」と、二人に言いました。編集者が、ペラペラと、語ってくれました。何者かが、私の小説のトリックで私を殺そうと、忍び込んだ。酔っているAを発見して、殺した。その後、リビングで私を見つけ、胸に包丁を刺した。そしてその場を去った。警察の見立てでは、今はこんなところで、犯人は見つかっておらず、未だ逃亡中、とのことでした。よし、と思いました。 3日ほどたった頃です。新聞を見ると、まだこの事件は大きく紙面を飾ってました。 【小説家、自分のトリックで殺されかける】 という表紙でした。面白すぎて、今でも保存してあります。まさか、被害者が殺人犯とは思わないようでした。小説内では本当に私が犯人ですが、誰も私を疑うことはしませんでした。変な常識に囚われてるんですね。なぜ、私以外を犯人と思うのでしょう?ここまで、小説通りに合わせているというのに。私の手のひらで踊っていました。担当編集者も、殺人犯の命を救った医者も、この新聞を発行した彼らも、この新聞を読んでいる彼女らも。面白くって仕方ありません。
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