1人目。

4/4
前へ
/31ページ
次へ
すぐにでも、本にしたかったです。ただ、これを本にしていいものか悩みました。少なくとも、今は存在しない人間が犯人扱いされてます。世間から見て、私は友人を殺され、自身も殺されかけた、哀れな1人の人間です。そんな私が、この事件の小説を書けば、話題を呼ぶかもしれませんが、怪しむ人間も出てくるかもしれません。だからしばらく経ってから本として出そう、とこの時は思ってました。それこそ、1年ぐらい間をあけて、です。まぁ、結局この殺人はこの、本で初めて世に出たのですが。後の四人も同様ですね。いつか本にしよう、小説にしよう、と思って、いつの間にか年月を経て、この独白にまとめることになってしまったんです。 あぁ、Aの話でしたね。 退院した後、警察の方とお話をしました。一言目が何だったかはっきりと覚えてます。 「お辛いと思いますが、犯人逮捕のためご協力お願いします」録音機でも持っていけば良かった、と後悔しました。その後、される質問に全て答え、別れ際に、「必ず犯人を捕まえます」と、警察の方に力強く手を握られました。今度はしっかりと、携帯で録音しておきました。 そのまま、家には帰らずに、Aの墓参りへ向かいました。途中で、コンビニ寄って新聞を購入すると、店員さんに、大変でしたね、と声をかけて頂いたので、もう大丈夫ですよ、と言って店を出ました。 Aの墓につくと、Aの親が墓を拝んでいたのです。話しかけるのもな、と思い、少しばかり様子を伺おうと思い、別の人間の墓参りの振りをして、Aの墓の隣の墓を拝んで、聞き耳を立ててみたんです。 「A、あんたが死んだなんてまだ信じられんよ。父さんと、二人で家が広く感じてしまうの。」母親はこれだけ言うと、ずっと泣いてました。 「A、父さんな、必ず、犯人に償いをさせるよ。ここに連れてきて、謝らせるよ」 そう言って、両親は墓参りを終えて、私の後ろを通って帰路に着きました。 私は半歩、横にずれAの墓の前で、携帯を取り出して、アプリを起動しました。 「これ、警察の人が言ってきたこと」 『必ず犯人を捕まえます』 携帯をポケットにしまい、バサバサと新聞紙を広げ、 「これ、お前が死んだ事件」 と、言いました。 立ち上がり、新聞を脇に挟み、Aの墓を見下ろしながら、私は言いました。 「犯人、捕まるといいな」 1つ、私嘘をつきました。先程、本にすると怪しまれるので、本にしないと書きました。あれ、嘘です。 本当のことを書きますと、殺人の楽しさを知ってしまったんです。人の命を奪うことの甘美で、残酷で、快楽に、魅了されてしまったんです。生活に困ることは無かったので、Aを殺してからは小説など書かずに、人殺しの絵図ばかり書いてました。そうして、2人目、3人目、と増えていったんです。生きてる人間はいくらでも溢れてますから。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加