万年筆。

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ごめんなさい、本当にごめんなさい。私は赤の他人を生贄に捧げたんです。空港までの道中、タクシーの車内でずっと、謝っていました。フロントのお嬢さんの顔を思い浮かべながら、ごめんなさい、ごめんなさいって繰り返してました。タクシーから降りる時、運転手のおじいさんが、話しかけてきました。 「お兄さん、忘れ物だよ」 ドキッとしました。心臓の鼓動が早くなるのが分かりました。 手渡されたものは携帯でした。あぁ良かった、ようやく解放されたと思いました。運転手にお礼を言って、飛行機乗り場へ向かいました。すぐに乗って帰りました。よかった、わずか1日と少しの事だったけれども、恐ろしい体験だった。そう思いましたよ。田舎へ戻り、自宅へ帰ると、郵便物が入ってました。少々嫌な予感はしてましたが入っていたものは結婚式招待の葉書のみ。この日の夜は嬉しくて嬉しくて、普段飲まない酒を買って酔いつぶれるまで飲んで寝ましたよ。そうして、翌日は普段通り、小説を考えて、書いておりました。既に、万年筆のことなど忘れておりました。そうして日が経つにつれて、私の中からはあの日のことは抜けていったのです。 ですが、忘れた頃になんでもやってくるのです。友人の結婚式でした。素晴らしいものでしたよ、集まった皆が感涙するほど美しい式でした。ただ、余興というものがあるでしょう?ビンゴカードなどですよ。たまたまですよ。一番最初に、五マス綺麗に穴が開きました。気味が悪いと思ったのはこの時です。 ビンゴカードというものは、ランダムで数字を表示して、出た数字と同じ番号の箇所を開けるじゃあないですか。さて、この時、最速で開けるには4回数字が表示されればいいわけですよ。真ん中には、はじめから空いてますからね。ただ、そんな4回で穴が開くわけないでしょう。それをやってしまったんですよ。 たったの4回。綺麗に、横一列に5個穴が開いて、ビンゴです。もう万年筆のことなんて忘れてましたから、大喜びですよ。何が貰えるか、テレビか、パソコンか、なんて色んな想像してました。周囲の人間もぱちぱち拍手をして、凄い凄いと、私のことを褒めるのです。 「いやーお前はすごいやつだよ」 友人が言いました。 「お前が1番に当たってよかったよ」 友人が言いました。 「正直お前のために用意したって言ってもおかしくないからな」 友人が言いました。 「これが1等だよ」 友人が手渡しました。 小さな箱でした。まさか車の鍵か、なんて夢が膨らみましたよ。開けて驚愕しました。 万年筆が、ありました。
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