物書き。

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そうして、二作目ですがね、一作目を超える大作が出来ました。えぇ、君は本当に天才だ、これからも我社で小説を書いてくれ、と社長から直々に言われました。というのもですね、ただ二作目が当たっただけでは無いのですよ。万年筆を持つと、別人格のようになり、私は小説を書くことだけ行うようになるんですね。これは最近気づきました。友人が鬼神でも憑依したのかと思った、と言ってくれて初めて気づけました。そうそう、私が賛辞される理由ですけども、異常なんです。書くスピードが。その程度、と思われますか、そうですか。では1週間与えるので、1冊、文庫ではなく小説を創ってください。それも、超大作を創ってください。映画になって、社会現象にまでなるような、そんな小説を1週間で創ってください。出来ますか?私はやりました。それゆえ、天才だと、言われるのです。 世の作家達は私を羨むでしょう、世の作家を目指す者たちは、私を怨むでしょう。それでも私は嬉しかった。私のせいで何人の人間が蹴落とされたのかも気にすることなく、ただ、嬉しかった。ようやく世界が私を認めたのだと思いました。ホラー小説、ミステリー小説、ファンタジー、純文学、現代ドラマ、あらゆる小説の枠で私の名は広まりました。私の名を知らない人は世間知らず呼ばわりされるほどに、私は有名な人となりました。 はっきり言って、お金も沢山いただきました。もう小説を書く必要が無いくらいに、一生遊んで暮らしても、使い切れないくらいに、私の本は売れていったのです。 しかしですね、万年筆はインクを使うんです。当たり前のことです。どんなペンだってそうです。インクや芯がないと、文字を書くことは出来ません。私が手に入れた万年筆も、そうでした。早い話、ちょうど十作目を書き終わった時、インクが尽きたんです。書けなくなったんです。どうやっても、書けないんです。インクが無いですからね。私は万年筆が凄いのだ、と思ってましたが、その実、本当に物語を、小説を創っていたのはインクだったんです。インクが尽きた途端、私の物語はいつものつまらない物に成り下がりました。いえ、成り下がったと言うよりか、戻ったと言った方が正しいですね。いつもの、つまらない、誰の目にも留まることの無い、物語がそこにはありました。人に見せるわけにもいきません。今まで書いたものとはかけ離れている、つまらないものですから。失望されたくなかったのです。期待されることは心地よかった。その期待を裏切ることが怖かったのです。 だから、私考えました。考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて、気付きました。 文豪達はどことなく、ドラマチックな経験をしているのです。私に足りないものはそれだと思いました。
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