物書き。

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事実は小説よりも奇なり、と言うでしょう。私の実体験だってそうです。あの老爺ですよ。 あの老爺に会ってからおかしくなったんです。良い方向にですけども。 とにもかくにも、小説よりも、奇、である事実を、小説にすれば良いと私は考えたのです。難しいですか?すみません、あの万年筆の、あのインクが無いので、文が下手くそなんです。まぁそう考えた私はすぐに行動しました。何をしたかと言いますとね、簡単な犯罪です。つまらないものですよ、万引きをしました。それでもすごく、ビクビクしてました。今どき、どこにでも防犯カメラがあるせいですぐに犯人が分かるらしいので本当に危ない橋を渡りました。 しかしです。よし犯罪をしてやろう、万引きをした。盗みをした。どうだ、奇、だろう。とは言えないでしょうよ。だってその辺にいるんですから、高校生や大学生、下手をしたら小学生なんかもやってる程度のことです。はっきり言って、しょぼいんですよ。幼稚すぎるんです。たかだかもの一つ盗んで、バレたら叱られて、はい終わり、なんていうのはとても、小説にした時、面白いとは言えません。本当は分かってるんです。ええ、何をすれば面白いか、なんて。まぁ、察しのいい方は、既にお気づきでしょう。 殺人ですよ。命を奪うんです。ただ、何をすれば面白くなるのでしょうか。例えば、夜道を歩いている1人の人間を標的にします。後ろから、刃物を突き立てます。喉元深く、刺し、抜きます。鮮血が飛び散ります。終わります。そして、私は逮捕されます。つまらないでしょう。私もそう思いました。だから、私、自分の小説を参考にしました。1作だけ、創った推理小説です。犯人は結局捕まるのですが、捕まる理由は名探偵が存在するからなんですね。現代にいるでしょうか、殺人のトリックを見破り、証拠を集め、犯人を論破し、逮捕まで導くような名探偵が。答えは簡単です。いませんでした。何故そんなことが言えるのか、と聞きたくなる方もいるでしょう。こちらの答えも簡単です。私、既に5人殺してますから。だけど、いずれも、大きくなることはありませんでした。事故や自殺だと、他殺だなんて誰も疑わなかったんです。だから余計困ったんです。私は、奇、な小説が書きたかった。そうしないと、世間は私を見捨てるから。結果は殺人犯の逃げ勝ちです。誰も疑わない、誰も調査しないせいで、追いつかれるかもしれないスリルが全く無かったんです。何ともつまらない、駄作な現実がありました。まぁ、それでも一応、本にはしたんです。設定はざっというとこんな感じです。狂い人と呼ばれる天才殺人鬼が淡々と、誰にもバレずに殺していくだけの小説です。所々フィクションを織り交ぜてますし、三人称小説だったり、嘘を混ぜてるんです。売れましたよ、そこそこに。気になったら、購入して読んでみてください。 ここからは、誰をどう殺したか、事実を独白しようと思ってるんです。1人目から順々に。
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