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1人目。
1人目はまず間違いなく、完全犯罪となる自信がありました。これは、私の考えた殺人ではなく、万年筆のインクが考えた、作品を模倣するだけですから。
とても仲のいい、友人を殺すんです。それも一人暮らしの友人です。幸いなことに、私にも友人と呼べる人間はいました。ずっと幼なじみの人間でした。Aと呼ぶことにしますね。Aはいつも、私を遊びに誘ってくれました。私も、Aをいつも遊びに誘ってました。Aも私も人付き合いが得意ではないので、お互いに、誘う、という行為がとても苦手でした。もし、断られたら、もし、ウザがられたら、そう思うと誘えないよね、なんて事をよく話してました。そんなことを理解しあって周りの人間からも、本当に、君達は仲がいいよね、なんて言われることも多かったです。二人で旅行に行ったこともありました。しかしそんなAはもう、殺しましたから、この世にいません。なんて、可哀想な私。たった一人の、親友を殺されたなんて、とっても可哀想。殺したのは私ですがね。世間の目は、こんなものです。私が殺したなんて、誰1人思いませんでした。テレビで特集されましたよ。
「親友を失った、大作家。その心情は」
なんて、番組名が付けられてましたねぇ。
そうそう、自宅に押しかけてきた、報道陣へ向かって、怒鳴るのではなく、
「ほっといてください」と、だけ言って、あとはただ涙を流す。これだけで世論は私の味方でした。ちょろい世の中です。
この殺人の詳細を書きますね。
まず、Aと出かけます。二人で、どこか適当なところへ、ご飯を食べに行くのです。私が酒を飲みたい、と言うと、Aは明日の担当との打ち合わせはいいのか、と言って止めようとしましたが、大丈夫大丈夫、なんて言って半ば無理やり居酒屋へ行ったんです。酒に毒は入れません。犯人がその場所にいた、と特定されますからね。ベロベロに、足元がおぼつかなくなるぐらいまで飲ませるんです。とにかく、ビール、梅酒、日本酒、カクテル。あらゆる酒を混ぜて、飲みました。私は酔ったフリをしておくのです。店員は二人の呑んだくれが、ベロベロになって帰った、と錯覚するわけですね。さぁ、この後、どこに行きましょうか。答えは簡単です。
路地裏?違います。
では海?また違います。
正解は、私の家です。
私の家で休憩するんですね。ベッドに案内して、横になりなさい、と言うんです。
あー、とか返事にならない声を出しながらも、Aは横になりました。そして、すぐに眠りにつきました。
「A?」
と呼んでも、返事をしないこと確認して、私は台所へと、行きました。まずは、包丁を握ります。この時、軍手や手袋をはめて、指紋を隠す、なんてことしなくて良いのです。理由は後に分かります。仰向けで、グーグー眠るAの布団を剥ぎます。あぁ、なんと無防備でしょう。
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