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幕間~平穏なる日常③ ある朝食の風景
新汰はふわーっとあくびをしながら寝室から出てきた。いつもはさらさらの髪の毛も朝はやっぱりぐちゃぐちゃになるようだ。後頭部に派手な寝癖が鎮座している。
マンションの三階に彼らの住まいはあった。寝室からリビングを通り、廊下に出てそのままトイレに向かう。まだ寝不足なのか大きなあくびが出てしまう。
「おはよう、新ちゃん」
「おはーーー」
廊下を挟んでトイレの斜向かいにダイニングキッチンがある。そこからジューっと何かを焼く音といい香りがしてくる。
今朝は玉子焼きか、目玉焼きか。特に卵料理が好物というわけでもなかったが、朝の卵料理は新汰の中で朝のお楽しみの一つだった。
味噌汁の香ばしい香りと何かの焼ける香りだけでお腹がすいてくる。ぐぅと腹がなるのを聞きながら、新汰は用を足し顔を洗った。
顔を洗い終わり鏡を見る時になって、新汰は自分が眼鏡を掛けていないことに気付いた。彼の視力は日時用生活には支障のない程度ではあったが、事務的な細かい仕事をする事が多くなった最近は、普段眼鏡を掛ける事が多くなってきていた。
ないとなんとなく落ち着かなくなって来ている。
大学で出会いいつの間にか二人で暮らすようになってから、早2年がたっている。彼はIT関連の仕事を志望し、SEの資格が取れる学校を探して入学した。
杏子は看護師として一度就職していたが、そこを退職し再度勉強をするために同じ時期に彼と同じ短大に入学してきていた。
リビングに戻ると朝食の準備が終わっていた。
今朝は先刻の予想通りの和食、ご飯と味噌汁が鎮座している。しかし、いつもの卵料理はなく野菜サラダと焼き魚が顔を揃えていた。焼き魚だけでも手間だと思うが、大根おろしまで丁寧に準備されていた。
休日の朝でいつもより余裕があるとはいえこの手の入れようは少し驚きである。
「おっ、今日はなんかすごいね」
何かあるのではと訝しがりながらも、何にも気にしていない雰囲気を醸
かも
し出し、杏子の対面に座ると軽く手を合わせた。
「今日はシャケがたべたいなーって」
同じように軽く手を合わせ、休日の朝食が始まる。楽しみにしていた卵料理は、味噌汁の中にこっそりとこんにちはしていた。キャベツとたまねぎと一緒に閉じられている。これも新たの好物の一つだ。ただ卵を落としただけで煮込むのもまた好し。
「朝、シャケと卵とじなんて豪華だね。何かあった?」
「ううんー、休みで時間あったしー」
うららかな休日の始りだ。今日も平穏な一日でありますように。新汰は人知れず願うのだった。
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