1人が本棚に入れています
本棚に追加
幕間~平穏なる日常⑥ 街角にて②
空が高い。夏とは違い雲の少なく澄んだ空を見上げながら桐華はそんな風に思った。
いつの間にか夏が終わってしまったなと、少し感傷的になりながら桐華は視線を空から前方へ戻し、また駅に向かって歩き出す。
多過ぎる仕事を始末するための休日出勤だったが、人がいないオフィスでの仕事は想像以上に捗り、予想よりも数時間早く仕事は片付いた。
遊びに行くには遅い時間だが、そのまま帰るには少し勿体ない気がする。
「……とは言え、まずは腹ごしらえかなぁ」
ひとりごちる声は小さい。周囲には誰もいなかったが、それでも独り言を大声で話すのは憚れるきがする。
夢中で仕事をしていいたため、昼食の時間を大幅に過ぎていた。
少し痛む胃の辺りを服の上からそっと撫でながら、遅い昼食を何にするか思案する。
仕事場の周辺は多くの飲食店が並んでいる。それらを横目にしながら、ゆっくりと駅の方へ向かい足を進めた。
昼食の時間はもう過ぎていたが、周囲の飲食店からはおいしそうな香りがダ頼っている。
ラーメン、パスタ、定食……頭の中で食べたいものが浮かんでは消えていくが、なかなか決まらない。店の前を通ればその香りに惹かれはするが、空腹になりすぎたせいかその香り自体が意に重く感じるからだ。
仕方なくコンビニで野菜ジュースと買いそれを啜りながら歩くことにした。
紙パックを片手に駅前の通りで赤信号に引っかかった桐華は目前で嫌な物にでくわしてしまった。
猫の死体だ。交通量の多い交差点の真ん中付近に、小さな茶色い塊がぽつんと落ちていた。
大きさからいて子猫だろう。可哀そうにと胸を痛めた瞬間、その死体が小さく泣いた気がした。
「えっ?!」
驚いてその塊を見直すとなんと動いている。
まだ生きてる?!
その先はもう頭では思考していなかった。往来する車にクラクションを鳴らされながら飛び出し、驚いて逃げようよする茶色い塊を大慌てで鷲掴みにし歩道へ戻った。
気付けば心臓はどくどくと鼓動を鳴らしている。手の中で暴れる子猫は驚くほど小さい。よく見ると子猫は結膜炎だろうか、目やにで塞がっておりそれで車道へ迷い出してしまったようだ。
「はーー」
思わずしてしまった行動だが、こうなってしまっては仕方なかった。
桐華は猫を抑えていない方の手で鞄の中を弄り、寒さ対策で持って来ていたショールを出すと子猫が逃げないようにぐるぐるまきにした。
「あーあ、美味しいお昼はお預けね」
小さく呟いて、ショールの中でじたばたともがく子猫を片手に駅の中へ歩いて行くのだった。
最初のコメントを投稿しよう!