解師

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「ハル、」 『あいよ』 少年が刃物を振ると、ピッ、と黒紫の液体が飛んだ 足元には、斬られて息も絶え絶えの 「ほんま汚いわ。ありえへん」 『そんなん言わんと。こんなん雑魚やんか』 「せやけど。ハルもよお喰えるな。それ」 『うちの仕事やからな。あ、来たで。はよ着替え』 「んじゃ、後頼むわ」 『任せとき』 ピュイ、と少年が指笛を吹くと、曇った空から鴉が降りてきた ただの鴉ではない 少年と同じ、いや、それより大きいからだ 背中から着替えを取って頭を撫でる また、鴉がバサバサと飛んでいく 木陰で着替えて、少年が何かを呟くと脱いだ服が消えた 「終わったけ?」 『終わりー。ほな帰ろか』 「あ、待って。」 『そやったな。忘れとった』 ハル、と呼ばれたものが少年の腕に乗る 合わせて詠い出すと、2人、正しくは1人と1匹の周りが柔らかく光り出す ざあ、と足元から風が吹き出し、光を散り散りに弾けさせた 細切れになった光は、少し遠くを歩いていた人達の頭に吸い込まれる 一瞬立ち止まったが、また歩き出す人達 「もうしんどい。ハル頼むわ」 『しゃあないな』 腕から降りたハルが、ズズズと大きくなり、少年を背中に乗せる ふさふさの白い毛を掴み、辺りを見渡す少年 「誰も来とらん?」 『大丈夫や思うで』 「んじゃ帰ろ」 『行くで』 少年がポケットから紙を出し、口付けをしてから空へ投げる 投げた紙が真っ直ぐ空へ上がると、ぱんっとはじけた 「これでええやろ」 『サクはいっつも雑やねん』 「はよ帰りたいもん」 『見られても知らんからな』 「そん時は消せばええから」 『記憶って言ってくれ。そんだけ聞いたら物騒や』 グチグチと言いながらも、ぐっと脚に力を入れて飛ぶハル 屋根から屋根に飛び移りながら移動していく ハルは彼岸のもの だから質量が無い 彼岸のものには普通は触れることが出来ないが、サクは触れることが出来る そういう体質であるからだ 『…サク』 「分かっとる」 飛んでいるハルから飛び降り、電柱の上に立つ サクが見下ろす視線の先には、どす黒く霞んだ塊 「面倒ばっかあるん、ほんま無理」 汚れるのが嫌なのか、今度は刃物ではなく銃を取りだした サクが銃に息を吹きかけると、真っ黒だった銃が白く光り出した 『もう白やん。流石やな』 「こんなもんまだまだや。上はおる」 塊に銃を撃ち、ハルが喰う それがいつもの流れ 「はよ」 『明後日まで曇るからな』 「めんどくさ」 『我慢しときや。言付けやねんから』 そのやり取りを物陰から見ている人がいる サクが気付いていない訳が無い ハルも気付いている だから、消した 記憶と、サクとハルの存在を 存在を消す、というのは、消滅ではなく視界から存在を消すという意味である つまり、見えなくしたということだ 「こっちの気も知らんと」 『しゃあないわ。人間やもん』 「俺も一応人間や」 『サクは特別』 「さよか」 またハルに乗り、移動していく 暫くして行き着いたのは、何の変哲もないただのアパート アパートの前でハルから降り、ドアへ向かう ハルも小さくなってから、サクの後を追う 鍵を開けてから部屋の中に入っていく 「あかん、もう寝る」 『せめて晩御飯食べとき』 「作るエネルギー無い」 『もう、作ったるから待っとき』 「やった」 フワフワと、ハルの周りを取り囲むように煙が広がる 段々と大きくなって煙が消えると、1人の人間が立っていた 「ハル、耳出とる。ついでに尻尾も」 『人になるん結構疲れるんやからな?』 「後でモフらせてな」 『はいはい』 猫耳と尻尾がついた男が、台所で料理をしている このアパートは、サクなどの解師(かいし)と、ハルなどの解魔(かいま)が住むものだ 普通の人間には、アパート自体視界に認識出来ない アパートの中にいる解師達を見ることも出来ないようにされている 解師とは、(かい)と呼ばれる存在を()いていく者の事を指す 解魔は、解師が解いた怪を自らの体内に取り込むという、言わば解師の相棒だ 解師は主に人間であり、解師1人だけでは怪を解くことは出来ない 怪を完全に解くには、解魔の役割が非常に大切である 大切ではあるが、2ヶ月に1度、解魔が取り込んだ怪が外に出たがり、暴走(ブースト)する 暴走した解魔は自我が保てず、解師だけでなく普通の人間も襲ってしまう 襲ってしまうのだが、それを制止するのも解師の役目である 階級の高い解師は、もちろん解魔も階級が高い 階級が高い解魔は、ほぼ全ての怪を取り込むことが可能だ 強力な怪を取り込めば取り込むほど、暴走の頻度が多くなる 暴走を沈める事により、解師と解魔の間に深く絆が繋がっていく 暴走専用の解器(かいき)という、解師にしか扱う事の出来ない武器もある 解器は怪を滅する働きがあり、万が一解魔を斬ってしまっても、解魔には一切傷がつかない 怪、という言葉を聞いた事は無いだろう 幽霊や妖怪とは別物の、彼岸の住人である 幽霊は、死んだものの魂が具現化されたものであり、人間に直接危害を加えることは無い 妖怪も彼岸のものであるが、彼らは大昔から存在しており、人間と共存したがっている 一方、怪というものは、色々な思考を持った物から生み出された意思である 楽しい、眠い、面白い、つらい、苦しい、死にたい、許さない 人間に危害を加えるのは、負の感情がより集まって出来た怪である 正の感情が元となっている怪は、人間に危害を加えることはない サク達が解いているのは、そういう負の感情が元である怪だ 幽霊が人を呪う、とよく言われているが、それは幽霊本人が呪っているのでは無く、幽霊が作り出した怪が危害を加えているのだ
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