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夜のおとぎ話 1
「むかしむかしの噺をしよう」
ゆったりと、揺り椅子に身を任せながら老婆が言う。
暖炉の前のラグで寝そべり、頬杖を突き足をプラプラと揺らしながらお気に入りの人形を撫でている幼い娘がぱっと顔を上げる。
暖かそうな赤い天鵞絨のケープで弾む巻き毛は老婆の白髪とそっくりだ。さあ、もっとこっちへお寄り、と手招くと、娘はするりと老婆に寄り添った。膝に頭をもたれる孫娘の髪を目を細めながらやさしく撫で、老婆はさて、と一声。これから日々の習慣、寝る前のおとぎ話が始まる。
「何のお話?」
「オオカミの噺さ。あちらこちらで度々人を呑む――お前も聞いたことあるだろう。あれはね、狼の形をしたバケモノなのさ」
「まあ、こわい!」
娘は大げさに息を飲むと目を丸くして両手で上品に口元を抑え、クスクスと含み笑いをする。この話はもう何度も聞いている。
「おばあちゃん。どうしてそれが狼でなく、バケモノだとわかるの?」
「簡単さね。どう見たっておかしいじゃないか。どんなに大きな狼だって人を丸のみにできるほど口も大きくなけりゃ体も大きくないだろ」
クックック。と老婆が笑うと、それに合わせて娘も笑う。何度も聞いている大好きな話だ。
オレンジ色の炎に照らされ、レンガの壁に二人の影が揺らぐ――。
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