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43 せっかくの舞踏会なのに疲れがたまりすぎる。【蓮SIDE】
「ほっほっほっ、分かっていただけましたか殿下」
「あぁ。しかしそれでは困ったな。その理論でいくならば──レン以外、この場にいる者は誰も舞踏会に参加することもできないではないか!」
「!?!?」
俺はすぐにレックスの顔を見上げる。レックスはニヤリと口角を上げて、俺の手を握った。
「余を含めて追い出されるのは困ってしまうな。レン、お前一人で踊ってみるか? 一人ならあの奇妙な踊りを踊るのも恥ずかしくはなかろう。……余はお前ほど純粋な人間は知らないぞ」
「な、な……っ!」
この、この馬鹿王太子が!! 貴族の方々が放心してしまってるじゃないかっ! 王太子としてこういうのはやばいんじゃないか!? ああもう、こういう恥ずかしいことを真顔で言えるんだからイケメンは憎いぜ。俺は顔が熱くなってくるのを感じつつ、俯いた。するとレックスが俺の腕を引く。
「すまないな。どうやらこの者の体調が優れんらしい。少しの間、外に出てくる」
「あ、ちょ!? 殿下!?」
レックスは人の波を上手く泳ぎ、会場の外へ出た。薄暗いバルコニーに入ると、新鮮な冷気が俺の頬を冷ましてくれる。
「よし、しばらくはここにいるといい。余は引き続きああいう貴族共の相手をせねばならん」
「あの、レックス様! いいんですか? 王太子があんなことを……」
「何がだ? 余は事実を述べたまでだが」
「っ!」
「それに、我慢できなくなったのでな。……己の惚れた人間を悪く言われたのだ。腹が立つのも当然だろう」
レックスは「ゆっくり休んでいろ」と言い残し、会場へまた行ってしまった。自由になった俺はその場で蹲る。大きな柱の陰に隠れたのだ。誰も見ていないというのに、無性に恥ずかしくなって。
「……なんなんだよあいつ」
俺はため息を吐いて空を見上げた。綺麗な星空だ。この舞踏会の明かりが邪魔しなかったらもっと綺麗だったろうに。……もう帰りてぇな。
しばらくぼうっとしていると足音が聞こえた。俺は慌てて柱の陰に隠れなおす。そうしてそのまま蹲って、耳を澄ました。
「──そうしたら私のペットが痛い痛いって暴れだしてね──」
「ははは。それはさぞ滑稽だったでしょうね。しかし貴女のような美しい方の手で虐げられるというのならば、そのペットも幸せでしょう」
「あら、坊やなのに口が上手いこと。ふふ、今度私のお屋敷でお茶でもどうかしら?」
「えぇ、ぜひ……」
随分と物騒な話だな。ペットって一体どんな生き物だったのだろうか。まさか人間とか? いや、そんなまさかな……。どちらにしろ俺が聞いていい話でもないだろう。俺は気配を隠しつつ、そっと柱から顔を覗かせた。そこには──。
「オディオ、貴方って硬派な見た目な割に遊ぶタイプなのね」
「おや。軽い男は嫌いですか?」
「……いいえ。簡単に指に絡みついてくるから好きよ」
──オディオ・アゴニー・ヘイトリッド!! 攻略対象キャラのインテリ眼鏡じゃねぇか!
俺は思わず声を上げそうになって、自分の口を閉じる。オディオのやつ、何やってんだよ。あんなボインのおば様とイチャイチャしやがって……。大人な女性が好みなのか? どっちにしろ軟派な男は俺の嫌いな部類に入る。ま、向こうもレックスに心酔してるみたいだし俺のことは気に食わない下民という認識だろうが。
すると柱の向こうから連続したリップ音が聞こえる。俺は眉を顰め、耳を塞いだ。なんで他人のキスの音なんて聞かなきゃいけないんだよ!!
──ああもう、最悪だっっ!!
結局、オディオはその後すぐにその女性とどこかへ行ってしまった。俺はそれまで必死に耳を塞いで緊張していたため、非常に疲れ切っていた。
もう本当に帰りたい……。
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