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「まどか?」
「ここから、月が見えるんですね」
「あぁ……そうだな」
二人で窓際に移動する。
今日の月は、ちょっと欠けている。でも、明るい月だった。
「写真撮ろう」
私は携帯を構え、写真を撮る。確認してみたけれど、上手く撮れない。
「星や月を撮るのは難しいんだよ」
「そっかぁ……残念」
思い出に撮りたかったのになぁ、なんて小さく溜息をつくと、不意に背中が温かくなった。いつの間にか、私は先輩の腕の中にいる。
後ろから抱きしめられ、先輩の吐息が耳にかかる。ゾワリと肌が粟立ち、一気に体温が上がった。
「ほんと……無防備すぎるだろ」
「え?」
あまりの小さな声に、もう一度言ってほしいとねだる。でも、先輩は何も言ってくれない。その代わり、引き寄せる腕が強くなった。
「今更部屋に帰したくないけど、帰さなかったら、オレが激しく消耗する……」
ん? 一体何の話だろう?
「どうして消耗するんですか?」
「……嘘だろ?」
「へ?」
先輩が突如不機嫌な顔になり、私から離れる。私が驚いていると、グイッと腕を強く引き──。
ポスン。
私の背中は柔らかいスプリングに沈み、真上から先輩が見下ろしている。
え? え? 一体何が起こってるのっ!?
「まどかはオレを何だと思ってるわけ?」
「えっと、えっと……彼氏……です」
「彼氏が彼女と夜中、同じ部屋にいます。おまけに彼女はパジャマなんて無防備な姿です。更におまけに、彼女は自分から彼氏の部屋にやってきました」
「……」
「さて、彼氏はどんな気持ちになるでしょう?」
口調は丁寧だけれど、顔は不機嫌なまま。うっ……久々の不機嫌顔はちょっとコワイ!
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