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「えっと……呆れる?」
「ブブー。不正解」
「じゃあ……えーっと……」
冷静に考えれば、答えなんてすぐに出る。簡単すぎる問題だ。でもこの時の私は、置かれている状況が想定外すぎて、頭がぐちゃぐちゃになっていた。
「手を出したくて仕方なくなる。でも、まだ出せない。……生殺し状態」
「生殺し……」
うっ……。そういえば、章臣先輩はお父さんと約束していた。心配をかけるようなことはしない、と。でもそれは……手を出さないってことと同義じゃない、いや、同義か。うーん。
「ごめんなさい。何も考えずに来ちゃって」
身なりなんて考えてる余裕はなかった。とにかく、先輩と一緒に写真を見たいって思って、部屋に行くことしか考えてなかった。カードキーまで忘れてきちゃうし。フロントに電話をしなければ、自分の部屋に入ることもできない。
「馬鹿」
「……否定できない」
「違う」
先輩はコツンと額を合わせた。途端に、ぎゅんと体温が跳ね上がる。あまりに顔が近すぎて死にそう、ううん、死ぬっ!!
でも、これほど近くで見ても、章臣先輩は綺麗だ。男の人に綺麗って表現はあまり使わないかもしれないけれど、綺麗って言葉が合ってしまうのだからしょうがない。
あぁ、睫毛も長い。
「まどかって……ほんとに天然。この状態でじっとこっち見てるとか」
「え、だって……章臣先輩が綺麗だから」
「はぁ?」
「眉も綺麗、目の形も綺麗、睫毛だって長い、鼻筋が通ってて……」
「あーもう、ストップ」
章臣先輩は起き上がり、ちょっと乱暴な仕草で眼鏡を外した。
「先輩?」
「全く手を出さないのは、無理」
「え?」
先輩は私の背に腕を回し、身体を起こさせる。そして、そのままきつく抱きしめた。
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