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「先輩……」
「ん?」
先輩の服の襟元を掴み、顔は背けながら言った。
「先輩が食べたいなら、食べてもいいです……よ?」
「……」
言ってしまった。
頭で考えてたら、たぶんこんなこと言えない。でも、頭で考えることなんてできなかった。だから、きっとこれで……いい。
私は顔を横に向けたまま、先輩の答えを待つ。
「食べたい」
「じゃあ……」
「……でも、今はまだダメだ」
「どうしてですか?」
章臣先輩は大きく息を吐き出し、私を解放する。そして、今度は肩を抱いて引き寄せた。
「お父さんとの約束は守らなきゃいけない」
「でもっ」
「まどかのお父さんも、お母さんも、二人で旅行なんてすればそういうことになる、そう思いながらも許してくれたんだ」
「……」
「でも、絶対心配なはずなんだよ。それがすごく伝わってきた」
先輩は私の方を向き、穏やかで優しい笑みを向ける。それはもう、心臓が痛くなるほどの。
「だから、今日は食べない」
「……はい」
「でも、今日は、だから」
「……っ」
これ以上、私の顔が赤くなるようなことを言わないでほしい。そのうち、顔面から本当に火が噴き出してきそうでコワイ。
でも、嬉しい。章臣先輩はいつも私に幸せな気持ちをくれる。たくさんの宝物をくれる。もう、抱えきれないほどだ。
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