番外編SS 早春の桜

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「章臣先輩」 「ん?」 「……好きです」 「……」  先輩の顔が、瞬く間に赤くなる。すぐに顔を背けたけれど、バッチリ見えてしまった。こんなにちゃんと先輩の赤くなった顔を見るのは、久しぶりな気がする。  真夜中、京都のホテルの先輩の部屋、お互いパジャマ、そしてベッドの上。   こんな状況にもかかわらず、やっぱり思ってしまった。  章臣先輩は、可愛い。そして、かっこいい。  グイ。先輩が私を強く引き寄せ、耳元に唇を寄せる。 「オレも……好きだ」  今度は私の番だ。真っ赤になった顔を背けようとして……その前に、またキスをされる。そして、耳元で囁かれた。 「もうついでだから、耐久レースを続行する」 「続行?」 「部屋には帰さないから、もうここで寝ろ」 「うぇっ!?」  あまりの驚きに変な声が出て。先輩は笑いながら、私の頬を柔くつまんだ。  そして、ベッドの端に座っていた私を上に上がらせ、背中を壁にもたれさせる。そして、布団を引っ張り上げた。その隣には、先輩が並ぶ。 「眠くなったら、寝ればいいから」 「……」  そう言って、また肩を抱き寄せてくれる。そして、その腕は頭の方に上がってきて、私の頭は先輩の肩に寄りかかる。  どうしてだろう。ドキドキするところなのに。ドキドキもするけれど、こうしていると、何故かものすごくホッとする。  章臣先輩の鼓動を感じる。ちょっと速いそれは、ドキドキしているのが私だけじゃないと教えてくれる。  同じようにドキドキして、でもたぶん、同じように穏やかな気持ちで。  私は、先輩の腕にしがみつくように自分の腕を絡ませた。こうすると、もっと安心する。  先輩がフッと、息だけで笑ったのがわかった。 「なんだか……すごく眠くなってきました」 「じゃ、寝ろ」 「章臣先輩」 「いいから。大丈夫だから……」 「……大好き……」  意識が途切れそうになる前、再び唇に熱がこもる。そして、章臣先輩の優しい声がうっすらと聞こえた。 「オレもだよ」  夢と現実の間、私は靄のかかった頭でその言葉を聞き、笑みが零れる。そして、最後の力を振り絞るように、先輩の腕にぎゅっとしがみついた。  温かくて、幸せで、もう他には何もいらない。  そんな満たされた思いの中で、私はそっと……意識を手放したのだった。  章臣先輩、私は章臣先輩の傍にいることができて……本当に嬉しくて、幸せです──。  了
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