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「いいから。それよりまどか、結果は?」
「結果……?」
私の反応を見て、先輩が目を丸くする。
「え、おい、今日って緑大の合格発表だろ?」
「いえ、違いますよ。確かあと一週間は先だったかと」
「違うって! それは学費の振り込み期限のはずだぞ!」
「え……」
呆然とする。こんなことってあるのだろうか。合格発表の日を勘違いするって。
章臣先輩は携帯を操作し、緑大の学部ごとの試験日や合格発表やらが掲載されているページを出し、私に見せた。
「ほら、やっぱり! オレ、朝からずっとまどかからの連絡待ってたんだぞ。でも連絡ないし……今日会うからその時に言うつもりなのかと思って、ソワソワしてた」
「うそーーーっ!」
「それはこっちのセリフだ……。合格発表の日を勘違いするやつなんているんだな。まどか、強者」
「え、え、だって……」
「WEBで確認できるだろ? 早く確認して、両親にも知らせないと」
「え、ここでですか!?」
「ここじゃなきゃ、どこでするんだよ?」
「うっ……」
なんたる失態。バレンタインにうつつを抜かし、大事な合格発表の日を勘違いするなんて。
急に心臓がバクバクとうるさくなる。まさか、先輩の目の前で合否を確認することになろうとは思わなかった。
でも……万が一ダメだった時、先輩がすぐ側にいるとちょっとはマシかもしれない。いや、逆に辛いかな?
そんなことを思いながら、私は震える指で合否確認用のページにログインした。
「……」
表示された画面を見て、私は固まる。そんな私を見て、章臣先輩は眉を顰める。
「まどか?」
「先輩……」
私は胸がいっぱいになり、思わず先輩に抱きついた。
「まどか!?」
「う~~~~……」
「おい、どうした? どうだったんだよ!」
私はもう一度画面を確認する。じっくり目を凝らして見る。何度見ても画面は同じだった。
「う、受かった……」
「マジか!」
先輩は私の手から携帯を奪い、画面を確認する。確認した後、大きく吐息した。そして、改めて私をぎゅっと抱きしめ、頭を何度も優しく撫でてくれる。
「よかった……。頑張ったな、まどか」
「先輩のおかげです~……」
「まどかが頑張ったからだろ。……これで春から、また同じ学校だな」
「はい……嬉しい」
私は先輩の手から、もう一度画面を確認する。合格を示す画面、スクリーンショットを取っておこうかと思ってしまう。
これまでの努力が報われたのも嬉しいし、春からまた章臣先輩と同じ大学に通えることが何よりも嬉しかった。
私が喜びに震えている間に、先輩はいつの間にか私の作ったケーキを切り分け、食べる準備を整えてくれる。
「ほら、ゆっくり食べよう」
「はい」
私たちはそれぞれに自分の分のケーキを持って、リビングに戻る。
「合格おめでとう、まどか」
「ありがとうございます」
「あ、忘れないうちに連絡入れておけ」
「はい。メッセージ入れておきます」
電話だと長くなりそうだから、私は両親とお姉ちゃんにメッセージを入れる。入れた途端すぐに返事がくるけれど、それに対しては「ありがとう」と一言返事してすぐに携帯を閉じた。
きっと皆も察してくれるだろう。だって私は今、先輩と一緒にいるのだから。
コーヒーで乾杯をし、私たちはケーキをパクリと口にする。うん、いい感じ。恐る恐る先輩を見遣ると、先輩の顔も嬉しそうにほころんでいた。
「美味い」
「よかった……」
「カカオの風味が強めで、すごくいい。これならオレも全然いける」
「先輩、甘いものはそこまで好きってわけじゃないですもんね」
食べられないほどじゃないけれど、それほど好んでは食べない。だから、甘さはかなり控えめにしたのだ。私としては物足りないけれど、カカオは好きだし、これなら私でも十分満足できる。
こんなに喜んでもらえるなら、お姉ちゃんに怒られながら作った甲斐があったな、と嬉しくなる。ふふ、と口元を緩めているとすぐ側に気配がし、ハッと顔上げると、私は再び先輩の腕の中にいた。
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