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告白前夜
「はぁ……お腹痛い。そして、気持ち悪い」
彩は、明日のことを考えると緊張をしてしまいトイレに籠っていた。ズボンを履いたまま便器に座っていると、なぜか腹痛が和らぐ気がする。だから、ついトイレに長居をしてしまっていた。
なぜこんなにも緊張しているのかというと、実は明日、17日ぶりに晃と会う日なのだ。
先週の金曜日、晃からメールが来たことが発端だった。
晃と酒井は、昔からの幼馴染で、急に現れた友達もどきの自分とでは、比べ物にならないくらい差がある現実に惨めになり、晃からの誘いを断った。
その後、晃からの返信を見るのが怖くて、スマホに布団を掛け放置をした。結局、逃げていても前に進めないと思った彩は、意を決しスマホを確認した。すると、彩がメールを送信後、すぐ着信があった。その後も、彩が一向に電話に出ない為、30分毎に苛立ちのメールが来ていた。
晃は、自分中心に世界が動いていると思っている人だ。
だから、彩が無視していると思って怒っていたのかもしれない。でも、この晃の態度が自分に対する怒りだとしても、こんなに鬼メールするくらい執着してくれているのが、彩は嬉しかった。
結局断り切れず、明日の水曜日、会う約束をしたが、実際どんな顔をして会ったらいいのかわからないでいた。
『専務に気持ち伝えたらどうだ』
月曜日の夜に、真治に言われた言葉だ。
きっと、自分の気持ちを伝えても、笑わず聞いてくれると思う。ただ、その先の事が、晃との未来が……、描けないのだ。
自分の気持ちを伝えるだけは簡単だ。しかし、気持ちを伝えることが、ただの気持ちの押し付けになってしまうのではないかと、彩自身とても不安に思っていた。
そしてそのことが、もともとプレッシャーに弱い彩の、お腹が痛い原因になっているのだ。
――もう、一人じゃ抱えきれないから、2人に元気もらおうかなぁ。
そう思った彩は、前屈みになりながらトイレから出る。そして、自分の部屋へお腹をさすりながら戻った。部屋に戻るとベッドの上に寝っ転がり、スマホを触りLIMEを起動する。
『子猫ちゃんを囲む会』というグループをタップする。
「27歳にもなって、子猫って」と、みるきぃが名付けたグループ名を見て苦笑いする。
これは、月曜日に3人で飲んだ時に、みるきぃから発案されたグループ名だった。
LIMEを起動しながら、彩は月曜日のやり取りを思い出していた――
「そうだ! 林さんとみるきぃと黒須さんの三人で、いつでもメッセージのやり取りできるようにグループ作りましょうよぉー」
「え? グループって?」
「黒須さんって、林さんとLIMEでやり取りしているんですよね?」
「うん。メールより、そっちの方が早いし。既読になったかが、わかるしね」
「じゃあ、3人でチャットみたいに会話できるようにしましょうよぉ」
「そうだな。俺だけより、吉田さんもいると、黒須にアドバイスするにも心強いし」
「そうと決まれば、グループ名なんにしようかなぁ……」
「名前決めるのが面倒だし、俺たちの苗字だけ並べるのはどうだ?」
「はい? ちょっとぉ、林さん! その漢気溢れる提案は。却下! やだ、かわいくないですー」
「じゃあ、経理部はどうかなぁ?」
「えっ? 黒須さん……。経理部は、みるきぃと黒須さんだけでしょ。ちょっとー、どうしてこう男の人って、柔軟な発想とか、かわいい発想とかできないんですかっ! みるきぃ、アプリ立ち上げたら『黒須、林、吉田』とか『経理部』ってグループ名見たら、萎えるー。萌え要素ゼロ! 萌えを下さい、萌えを!」
みるきぃが、2人の顔を見ながらプリプリ頬を膨らませて怒っていると、彩と真治は顔を見合わせて、溜息交じりに同時に呟く。
「……じゃあ、吉田さんに任せるよ」
「そんなに言うなら、吉田さんが決めろよ」
その言葉を聞いたみるきぃは、いい案が思いついたというような満面の笑みで2人にグループ名を告げた。
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