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「女騎士、憧れですね。でも帝国にはできませんよ。さて、続きましては料理府からの意外な伏兵! エントリーNo9! ダレン!」
料理府二年目の彼は、普段はあまり目立たない、とても静かな青年だ。言葉数は少なく、黙々と目の前の事を完璧にこなす。そう、彼は完璧主義者なのだ。
そんな彼が女装に選んだのは、おとぎ話の魔女。だが、ただの魔女ではない。魔女であり、女王のような威厳がある。
黒くシンプルなドレスだが、黒地に黒の刺繍が施されて意外と豪華。上半身はスッキリと体に合っている。袖もほっそりと手首まであり、それだけでも綺麗だ。
スカートは少し膨らんだAラインで、重厚なシルエットを持っている。
彼は元々綺麗な顔立ちだ。長めの黒いボブに、大きめだがキリッとした黒い瞳。頭が小さく肌は白く、顎のラインもスッキリとしている。
そんな青年がこのような格好をすると、冷たい雰囲気が増して思わず飲まれてしまう。
正面まできたダレンは両手を広げる。金のマント止めから半円に大きなマントは、それぞれの中指についているリングに繋がっていて、まるで黒い羽根を広げたように見えた。
「おぉ……」
見下すような黒い瞳の冴え冴えとした光に、一部のマゾがゾクリと背を震わせる。まさに電気が走ったというやつだ。
そうした数人を見たダレンが、形のいい口元に笑みを浮かべる。ニヒルな笑みは無言でも「このブタ共め」と言わんばかりだ。
背を向けて去って行くダレン。それが完全に舞台裏へと消えて、ようやく会場は息をついた。
「すげー雰囲気。圧倒されるわ」
「なんか、俺踏まれたい気分になった」
「お前、それってヤバいって」
そんな声が会場に広がっていった。
「凄いドS女王様でしたね」
オリヴァーがそんな事を言うが、会場中は思った。
アンタがそれを言うのかと。
「さて、最後のエントリーです。エントリーNo.10! ランバート!」
そのコールに、会場中がざわついた。だがそれは、ランバートが出てきた途端に一気に静まりかえった。
出てきたのは、麗しい修道女だった。黒いシンプルなロングドレスに、首元を隠す白い襟。頭には肩くらいまでのベールがかけられている。
綺麗な金の髪は三つ編みにされ、後頭部で一つのお団子にまとめられていた。
露出の少ない姿だが、だからこその欲望がある。黒いドレスはシンプルなのだが、とてもシャープでタイトだ。細い腰つきから、尻のラインが服の上からでもはっきり分かる。ほっそりとした腕が、白い項に僅かに落ちる金の髪が。
しかも若い修道女の格好で、頭全体を覆うものではなくあえての短めベール。
聖職者の神聖さと禁欲的な空気、だからこそ触れてみたいと思わせる背徳感と、あちらも誘っているのではないかと思える腰つきだ。
正面に来たランバートは隊員達を見回すと、首からかけている大きめのロザリオを両手で握る。そして、自分の声を上手く女性に似せた。
「邪な心を持つ者達よ、私の前で懺悔なさい」
響く声は女性的な響きがある。声色までしっかりと操る彼は既に暗府にも負けない域にあるのだ。
「ランバートがOKなら、僕もOKだったんじゃない?」
ラウルが少しふて腐れるが、そこは所属が違う。ランバートはあくまで騎兵府。本職ではなく、趣味や副業のようなものだ。
まぁ、そっちの方に気合いの入る人間は多いわけなのだが。
ランバートが去った後、会場のあちこちから「懺悔しないと」という呟きが聞こえる。
だが、最も懺悔しなければいけない男は現在完全にノックアウトされていた。
「ファウスト、大丈夫か?」
「……少しだけなら」
戻ってきたクラウルが声をかけてくるが、正直大丈夫ではない。もの凄い破壊力だった。
けしからん腰つきだ。細くしなり、尻のラインも綺麗で誘っているとしか思えない。化粧もあえての薄付き。白い項が綺麗だった。
「それでは皆さん、投票タイムに移らせてもらいます! 綺麗だと思う番号を三つ書いて、前の投票箱に入れてください!」
箱が三つ用意され、書き込むための台も出てくる。順番に並んだ隊員達が一斉に書き込み箱へと投票していく。
それらが落ち着くと、司会のオリヴァーの指示で箱が下げられた。
「それでは、投票の結果が出るまでしばしお時間を頂きます。それまでどうかご歓談ください。なお、ミスコン参加者も混じりますので、楽しんで頂けると幸いです」
「まじで!!」
女装のまま参加者が出てきて、会場へと紛れていく。ただ見ていただけの隊員はそれだけで更に盛り上がったのだった。
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