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月桂樹の誓い(ランバート&ファウスト)
新年二日目、ホクホクの顔で戻ってきたラウル達と入れ替わるように、ランバートとファウストは宿舎を出た。昼を少し前にした時間、開店して間もない宝石店へと向かう。それというのも、お願いしていた結婚指輪のデザインが仕上がったとの事だった。
「どんな感じかな。なんか、ドキドキする」
楽しみも度が過ぎると胸が痛い。そんなランバートの隣で、ファウストは柔らかく微笑んで頭を撫でてくれた。
「いいものができるのは、間違いないだろ?」
「それは疑わないよ」
「不安そうな目をしていたが?」
「楽しみ過ぎてちょっと痛いの」
こういう部分はちょっと子供っぽくて嫌だ。旅行の前日に興奮で寝られない子供みたいだ。恥ずかしくて目を逸らしたのに、隣のファウストはとても楽しそうにしている。
「……笑うな」
「可愛いと思うけれどな」
睨むがまったく効果無し。柔らかな視線に見られ、自然と手を繋いで歩く二人の距離はもう恋人よりも近いものだった。
指輪をお願いしているいつもの宝飾店。そこのVIPルームに通されたランバート達の前にデザイナーがスケッチブックを持って座る。まだ若い青年だが、彼のデザインしたものを二人とも気に入り、この度依頼する事にした。
「結婚指輪ということで、三つほどデザインを描いてみました」
そう言って彼が出してくれた三枚のデザイン画は、どれも素敵なものだった。
二人とも剣を扱う事から、細くてシンプルなデザインをお願いした。お互いに選んだ宝石も入れたい事、そしてイメージは月桂樹であること。
月桂樹は結婚の祝福を意味するもので、昔から結婚指輪のデザインに用いられる。ランバートの両親も結婚指輪は月桂樹を模したデザインだった。それに、漠然とした仲の良い夫婦の憧れを持っている。
そして偶然か、ファウストの両親の結婚指輪も月桂樹だった。これはアーサーを訪ねた時に見せて貰って分かった事だったそうだ。
だから二人とも、何の相談もなくこのイメージを当てはめていた。
最初のデザインはシンプルな細いリングで、ゴールド。月桂樹の冠を模していて、葉の彫り込みがハッキリと分かる。そしてその中央にお互いの宝石が入るようになっている。最もオーソドックスと言っていいだろう。
二つ目は少し派手で、細い二つのラインが交差している。交差する片方はゴールド、もう片方はシルバー、勿論月桂樹の葉があしらわれ、交わり合う部分に宝石がはめ込まれる。
そして三つ目がとても変わっていた。見た目はつるんとしたシルバーのリングで、宝石も見当たらない。だが側面に月桂樹の彫り込みが細かくされている。宝石はリングの内側にはめ込まれ、取らないと分からない感じになっている。
「どれも素敵だ」
「あぁ」
二人でデザイン画を手に取って見比べている。その様子をデザイナーの青年がとても嬉しそうに微笑んで見ていた。
「……どれも欲しい」
「ランバート」
「分かってるけれど」
流石にそれは無いと分かっている。でも選ぶのは難しい。オーソドックスな物も素敵だし、一見変わった物も見てみたい。
「ファウストはどれがいい?」
悩むランバートを見る事を楽しんでいるファウストに問いかけると、彼はにっこりと笑って一つのデザインを指さした。
「俺は、これがいいと思う」
確かに素敵だ。そして間違いなく、この世でただ一つの物だ。
「よし! これでお願いします」
「畏まりました」
受け取ったデザイナーの青年も「やっぱり」という顔をしている。どうやらこれが一押しだったのだろう。
既に宝石なども選んでいるし、指のサイズも測り終えている。が、指のサイズなどは変わることも多いとの事で今回も計った。おおよそ前回と同じだから、これで作るとのこと。
完成はやはり、春頃になると言われた。
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